陽光の奏鳴曲 -第7番- (ページ6)

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６…side:Keigo.A ページ6

しくじった。

余計なこと言わなきゃ良かったぜまったく。

　突然の抱き倒し予言をされた彼女は
どうやらお化け屋敷で叫び倒した方がマシだと判断したらしい。

背に腹はかえられぬということか。

　最近テレビで見たどこぞのお笑い芸人の台詞が頭から離れない。

“時を戻そう”
その一言に尽きる。

ただこの状況に関しては「悪くないだろう」だなんて
天と地がひっくり返っても言えまい。

　あのお笑い芸人のコンビ名はなんだったかと
最早現実逃避に走り始めた俺の思考を知る由もない彼女は
ズンズンとお化け屋敷のゲートをすり抜けた。

同時に小さく震え始める彼女の腕。

　そこまでして拒否られる自分の情事とは
一体彼女にとってなんなのだろうか。

個人的にはこの上ない愛情表現なはずなのに、
殺人行為とすら思ってそうな彼女の態度に
どうも納得がいかない。

痛いとか、苦しいとかそういう訳でないだろうに。

　何がそんなに嫌がる事があるのかと
自分には分からない彼女の感情を上の空になって考えていれば
足を止めた彼女はグイッと俺の背中を押した。

「なんだ突然」

『先行って』

「別に先行くのはいいが、腰抜かしても俺は知らねぇよ。
間違ってもいつぞやの如くおぶってなんかやらないからな」

『え、なんでそんな事言うの』

「当たり前だろ。あの時は仕方なく助けてやったが、
今日に限ってはお前がこっちを選んだんだ。
俺に助ける義理はないだろ」

『いやいや、彼女ってだけで助ける義理はあるよ。
何言ってんのアンタ』

「なら、お前が先に行け。
そしたら助けてやらねぇ事もない」

『へぇぇえ！？なんでよ！？
なんでそんな意地悪になったの急に！？』

「別に虐めてるつもりなんざこれっぽっちもねぇよ。
ただ俺におんぶに抱っこじゃ意味ねぇから言ってんだよ俺は」

『……くそが！』

　覚悟を決めたらしい彼女は、
女子らしからぬ暴言を吐いて暗がりの中に足を踏み入れた。

馬鹿め。

俺を後ろにさせたこと、後悔すんじゃねぇぞ。

　彼女にバレないように喉を鳴らして笑いながら
彼女の後を追った。