２３…side:Keigo.A ページ48
仮にも負け知らずの部長だったってのに
どこぞの1年坊主に負かされて髪を刈り上げられたこと。
Aに出会う前に軽い気持ちでナンパした女がメンヘラすぎて
ストーカーよろしく殺されかけて警察沙汰になったこと。
部活の全国大会で、殺人未遂よろしい行為にあったこと。
Aの前には婚約者が2人もいて、
学生時代最後の思い出もまともに
作れなかった上に父に勘当されかけたこと。
かと思えば、6年も彼女と離れることになって
禁欲の日々が続いたこと。
そして、漸く帰ってこれたと思ったら、
再会を果たす前に彼女が事故って5年も眠り続けていたこと。
全てを至極丁寧に話してやっているうちに
王子の視線はどんどんと落ちていった。
今となっては地面に歩く蟻を目で追っている
かの如く完全に俯いてしまっている王子は
今何を思っているのかとふと思った。
「……ま、細かいことは省いてるけどな。
全部話してたら日が暮れちまうぜ」
「……ほとんど、あいつの話じゃねぇか」
「そりゃそうだ。
あいつとは2年もいなかったが
誰とよりも濃い時間を過ごしたからな」
「……んだよ、それ」
勝ち目、ねぇじゃん。
そう言って、自嘲じみた掠れた笑い声を漏らした王子は
俺が思うよりずっと本気でAを想っていたのだと知る。
きっとさっきまでの俺なら、
分かったら手出すんじゃねぇよの一言でも言えただろうに、
今の彼の顔を見たらそんなこと言えなくなってしまった。
これは、忍足が背中を押さざるを得ないわけだ。
いいよ、彼女がいいって言うならお前に譲ってやるよ。
そんな声を掛けたくなるくらい
彼が思い悩む顔は、あの頃の俺と重なって。
ただ、それはAじゃなければ、の話で。
あいつだけは絶対に渡せない。
俺の、何よりの宝。
それ以外だったらなんだって今なら躊躇いなく渡せる。
金でも権力でも好きなもん持ってけよ、と
言ってしまおうかとも思ったが
そんなんでは絶対にこいつの気は晴れない。
なんなら嫌味にしか聞こえないだろう。
ならば、彼が1番救われるのはきっとこの言葉だ。
「……諦めんのか？」
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作者名：2ytluvuusham081 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/list/2ytluvuush1/
作成日時：2020年11月1日 18時
