月光の前奏曲 -第19番- (ページ47)

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⑭side:You ページ47

遅せぇよ、ってことか。

ごめんごめん。

特に何をされた訳でもないが
謝るのもなにか癪に思いペコッと軽く
頭を下げればふいっと顔をそらされた。

　くそ。なんか腹立つ。

こちとら足挫いたってのにそれを堪えて来てやっとんぞと
何も悪くない跡部に突っかかるような
ひねくれた思考が止まらない。

てか、こんな足でスタートダッシュしたら多分死ぬんだけど。

　元々跡部が決めていた走順は
私、ジロちゃん、日吉くん、がっくん、忍足、鳳くん、宍戸。
言わずもがなアンカーは部長跡部。

そこになんの策略もない。
ただ50m走のタイムの早い順である。

こんなところでも追い抜きを目論む跡部は
やはり生粋のプレッシャーバカ。

　そもそも、スタートダッシュのあのドキドキ感が嫌いな私は、
痛めた足という無駄な足枷を更に嵌められていて
もうやる気などという闘志は微塵も残っていない。

そんな私達を眺める滝は、
だるいからパスーと嬉嬉として閲覧席で座っている。
樺地くんは記録係として駆り出されているため
同じようにぼーっと私達を見つめていた。

　ずるくね？

それが許されるのであれば私もそちら側にいきたい。

だが私が抜けたら人数不足。

いやいや、それでも普通ここは滝が出るでしょ。なんで私よ。

嘆く私の事なんてこれっぽっちも
気にする様子のなかった跡部はいつの間にか
勝手にリストに私の名前を入れてやがった。

　そうなったらもう出るしかないわけで。

私の心のブーイングは滝と跡部に2分割された。

そんなことを今更言っても
やっぱり、待ってくれないのが時間。

各部走順で並ぶようにアナウンスがあったあと
腹を括り先頭に向かおうとすれば、
待て。と王様の淡々とした制止の声に振り返る。

「走順を変える」