月光の前奏曲 -第19番- (ページ4)

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⑦side:You・過去編終ページ4

『……跡部』

「なんだ」

『チョコ、食べる？』

「……は？」

『いや、一応あげとこうかと思って。
さっき忍足達にもあげたからさ』

「……」

　頬杖をつきながら部誌を読んでいた跡部に
さっき鳳くん達にあげた市販のチョコを差し出せば、
目線だけ私に向けた跡部は少し間を置いたあと、
頬杖をついていた手を広げてきた。

貰っとく、ってことか。

もういい加減チョコも見たくないであろう
跡部にコロンとチョコを落としてやれば
彼はふっと笑った。

「買ったやつかよ」

『いや、私が作ると思う？』

「いーや、思わねぇな」

『でしょ？っえ、てか食べんのそれ？』

「んだよ、ダメなのか？
食べるかってお前が言ったんだろうが。
それに腹減ったんだよ」

『いや言ったけどそんなんで
お腹貯まんないでしょうに……まぁいいや』

　さて、そろそろ帰るかと
ロッカーからスクールバッグを取り出し、
帰る準備を終えておつかれーと出ていこうとすれば、
相も変わらず口をモグモグと
動かしている跡部はまだ部誌を読んでいて。

私を見る仕草もなく、
手をかざすように向けたのを見て扉を閉めた。

　はー、疲れた。

って、もう9時じゃん。

早くかーえろ。私もお腹すいたな。

あ、チョコ貰ってくんの忘れちゃった。

まぁいいや、明日で。

　てか、甘いもの苦手なのに
あんなに貰うとか鬼の所業に近いよな。

それでも偉いな、ちゃんと色々考えてんだから。

そりゃあんだけ考えてくれてたら
跡部のこと好きな女子は食べてもらおうと必死になるよね。

　……ん。

待てよ。

跡部、今、私のチョコ、食べてた……？

　……いやいや、まさかね。

お腹すいたからって言ってたし、
あんなん義理でもなんでもないし、
ノーカンだと思ったんだよね！

……多分。

　やばいやばい、こんなこと思ってたら
跡部ファンの皆様に殺されてしまう。

早く帰ろ！！

「……甘ぇ。」

　部室でチョコの甘さを噛み締めた跡部が、
1人笑っていたのは教室から戻ってきた樺地くんしか知らなくて。

来年のバレンタインは部員達に
適当に作ってやるかな～と考えながら帰った17歳のバレンタイン。