月光の前奏曲 -第19番- (ページ3)

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⑥side:You ページ3

『……話がすっ飛びすぎて
全然分からないんですけど。
ルールって何が？教室と部室にチョコ置くことが？』

「まぁ、簡単に言えばそうだな。
毎年腐るほど貰うがさすがに
全部は食いきれねぇ上に俺様は
そもそも甘いものが好きじゃねぇ」

『それは知ってるけど……』

「だから、貰ったチョコは貰えなかった奴ら
にも平等に配れるように部室と教室に
置いて持って帰って貰ってんだ。男女問わず。
じゃねぇと無駄になっちまうだろ。
いくら俺様でも作ってもらったものを
捨てるってのは罪悪感感じるからな」

『……それをここの女子達は許容してんの？』

「もちろん。元々少しでも
貰う量を減らそうと思って始めたことだ。
それでもあんまり変わんねぇけどな」

『ハート強いな氷帝女子……』

「まぁ、強いて言うならもう1つ。
減らねぇ理由はあんだろうけどな」

『？』

「俺は、好きな奴に貰ったチョコだけは
その場で食うって決めてんだ。
どこから漏れたかは知らねぇが、
それを期待した雌猫達が毎年凝りもせず
直接渡してきやがんだよ」

　ま、下駄箱に入れられるよりはマシだ。

吐き捨てるようにそう言った跡部は玉座を
クルクルと回転させながら背もたれに項垂れていて。

『もしかして、だから今日戻ってくんの遅かったの？
1人1人貰ってたから？』

「あーん？それ以外に何があんだよ。
部活終わった途端に大行列だっての。
おかげでアイツら捕まえられずに俺様直々に
運ばなきゃいけなくなっちまってこれ以上最悪な日は早々ねぇよ」

　海外では男が女に渡すのが普通だってのに、と
珍しくブツブツと文句を言う跡部は
私が思っていたより、随分と誠実で、一途な男だった。

貰ったチョコを無駄にしないように考えていることも、
苦手だと言うのに好きな人から貰ったもの
だけは食べると断言していることも、
すごい数の女子から本命を貰っているであろうに
ちゃんと1人1人受け取っているところも。

まさか、雌猫雌猫って小馬鹿にするように
いつも言っているあの跡部がここまでちゃんと
女子の気持ちと向き合おうとしているだなんて思いもしなかった。

なんか、意外。

ちょっと見直した、かも。