月光の前奏曲 -第15番- (ページ28)

今日:5 hit、昨日:15 hit、合計:17,642 hit

②side:You ページ28

今日も今日とてダルい授業が終わり、
部室の鍵を開けようとバッグを漁れば
ガタン、と中から音が聞こえた。

いつも私が一番乗りなのに、
今日はもう誰か来てるのか。早いな。

　そんな軽い気持ちでドアノブを回し
中に入った瞬間に目の前に広がった光景にギョッとした。

扉を開けたすぐそこに、
ベンチに頭を突っ伏して項垂れている男がいるとはまさか思うまい。
ただ、顔は見えずとも見てくれでわかるが、これはがっくんだ。

　未だにドキドキ跳ね上がる心臓を抑えながら
ちょいちょいと肩を叩いた。

『お、おーい、生きてる？』

「……」

　返事がない。ただの屍のようだ。

「勝手に殺すんじゃねぇよ」

『うぉ、起きてた！』

　心で呟いたはずの私の言葉は自分が気づかないうちに
声に出ていたらしく彼はぐりんと頭をこちらに向けながら反抗した。

と、思ったのも束の間。

私の顔を見るや否やまたゆっくり
ズリズリと頭を定位置に戻した。

『ど、どうしたの……？』

　こんながっくんは正直初めてだ。

いつもなら嫌なことがあろうが、悲しいことがあろうが、
くそくそ！と地団駄を踏んでいるだけの
がっくんがこんなになるだなんて。

きっととんでもない悩みを抱えているに違いない。

　それだというのに
よもや、どうしたの以外にかける言葉が
思いつかない自分の語彙力の無さを心底悲観した。

「……スト」

『……え？』

「テストだよ！！」

『ん、えっ、あぁ、テストね……テスト！？』

「お前が言い出したんだろ、
今回のテスト賭けようって」

　あぁ、そういえばそんなこと言ったっけか。

去年の学年末テストで、
部活に熱を帯びすぎた結果、
見るに堪えない点数をたたき出した私達は
榊先生にこっぴどく叱られて1週間停部になった。

私はまだしも、
勉強？なにそれ美味しいの？状態だった
宍戸、がっくんは底辺もいいところで。

主要5教科の合計点数が
言うまでもなくオール満点の跡部の
1教科にも勝てていないというなんとも情けない結果。

ジロちゃんに至っては寝坊したせいで
テストすら受けられず0点以下という最悪の事態。

もちろんこんな惨状を完璧を求める王様が
許してくれるはずもなく。

「テメーら、余程俺様に恥をかかせてぇようだな。
監督の善意で今回は1週間で済んだが、
俺はそんな甘くねぇからな。次はないと思え」

　全部員の前で並んで正座をさせられ
最終宣告を受けた私たちは作戦会議と称して
部活後に某ファミリーレストランに集まった。

山盛りポテトと、
ドリンクバー片手に今、話し合いが始まる。