月光の前奏曲 -第15番- (ページ26)

今日:24 hit、昨日:15 hit、合計:17,661 hit

４…side:You ページ26

「……」

『意味、分かんないよ。
だって跡部、昨日までは
あんなに楽しそうに笑ってくれてたじゃん。
私にキス、してくれてたじゃん。
なのに、急にそんなこと言われても信じられない』

「……一時的な気の迷いだな。
俺様としたことが、気づかないうちに弱ってたせいか、
近くにいたお前を好きだと勘違いしていたってだけだ」

『嘘』

「ハッ、何を根拠に。自惚れもいい加減に、」

『癖だよ、アンタの』

「……あーん？癖？」

『跡部が悩んだり、考えて物を話す時。
絶対唇を触りながら話すの。気づいてなかった？

本当に気の迷いなんかだったら、
そんなに考えることなんてないでしょうに』

　ハッとしたように自分の唇に触れていた指を
離すと、彼は気まずそうに顔を逸らした。

真っ直ぐ彼を見据える私の視線から
逃げるように逸らしていた視線が、またゆっくりと交わって。

肩で一つ呼吸を漏らしたあと、意を決したように口を開いた。

「……たまたまだろ、そんなの。とにかく、だ。
俺様はもうお前のことはこれっぽっちも好きじゃねぇ。
分かったら俺に二度と話しかけるな」

『嫌。そんな命令されても
本心で話してくれるまでは私も引かない』

「なら――――」

　ゆっくりと私の方へ近づいてきた跡部は、
目の前まで歩みを進めると、
ポケットに突っ込んでいた手を私に差し出した。

なんとはなしに受け取った軽いソレは、
いつしかに私がノートの切れ端で作った拙い
なんでも言うことを聞く券で。

「……もう、俺に関わらないでくれ。頼む」

　静かな動作で顔をあげれば、
彼は、笑っていた。

　今日初めて見た跡部の笑顔は、夕陽に照らされて、
信じられないくらい、綺麗で、切なくて、
まるで泣いているかのように儚かった。

その笑顔に何も言えなくなった俯いて震える私を置いて、
跡部はそのまま去っていった。