３…side:You ページ25
ドアノブから漸く手を離した跡部が、私の顔を見据えた。
鋭く私に向けられた青いはずの瞳は、
夕陽に照らされて赤く染っていて。
何も言えず見とれていれば、
跡部は大きなため息をひとつこぼした。
「婚約の話は、本当だ」
あぁ。
私のこんなちっぽけな願いすら叶えてくれない神様は
やっぱり意地悪だ。
というか、現実主義者の彼が、
私がこういう時ばかり信仰する都合のいい神様なんて
存在しないのだと教えようとしているのかもしれない。
だとしたら、ありがた迷惑にも程がある。
希望という名の神が跡形もなく
私の目の前で崩れ落ちたその先には
神様とは相対する存在の王様が孤独に佇んでいた。
「ただ、ひとつ言っておくが、
俺はもうそんなことで悩んだりしねぇ。
俺も会ったことはねぇが向こうが
一方的に俺様に気があるみてぇで縁談を持ちかけてきてな。
相手はイギリス王室に代々縁のある公爵家の令嬢だ。
そんな上流貴族の縁談、断る理由もねぇ上に、
お前みたいな金も品も教養もねぇ女よりずっとマシだからな。
だから引き受けた」
「それで、元気がないだ？
まぁ強いて言うなら、お前にどうやってこの話を
伝えようかを考えていたせいでそう見えたんじゃねーの」
珍しく饒舌に、つらつらと言葉を重ねた
跡部の声を聞いて、黙っていれば。
「……これで、満足か？
なら、もう話すことはねぇ。
俺様は暇じゃねぇんだ。
……じゃあな」
『待ってよ、』
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作者名：2ytluvuusham081 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/list/2ytluvuush1/
作成日時：2020年10月25日 2時
