月光の前奏曲 -第15番- (ページ22)

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６…side:You ページ22

『なんか、その話をしてたせいで、
今日は遅刻してきた、みたいね』

「……なるほど」

『……まぁそうだよね。元々婚約者がいたんだから、
いなくなったらまた出来るのは当たり前の話だよ。
むしろ、こんな早々に自由奪われる跡部が可哀想で仕方ないわ』

　はは、とわざとらしく笑ってやったのに
忍足は少しも笑わないどころか私に咎めるような視線を送ってきた。

冗談だってばと凝りもせず笑った私の頭を忍足は
そっと撫でてきた。

『な、に？何これ。なんでいい子いい子？』

「……泣いとるように見えたから」

『え？泣いてる？いやいや、泣かないよ別に！
別に長く付き合ってた訳でもないし、
なんなら昨日今日の話だよ？
それなのに泣くわけないじゃん』

「……別に我慢しなくていいんちゃうか。
自分に嘘つく必要、ないと思うで俺は」

『嘘、ってだから私は、』

「A」

『っ！な、に』

「そーやって無理して笑ってればなんか解決するんか。
なんか変わるんか。自分に嘘ついて
現実から目ぇ背けてそれでええんかお前は」

『……そん、なの。泣いてたって、変わんないじゃん』

「馬鹿かお前は。現実と向き合うたら自然と涙が出るやろ。
現実と向き合うて、初めて前に進めるんやろ。
現実から目ぇ背けたら変えられるもんも何も変わらへん」

『……そんなこと、言ったって。
別に私に何が出来るわけでもないし、』

「はぁもう。じゃあ聞くけど、
お前は、何の為に水川にデカい口叩いたん？
誰の為に、誰を想って、行動してたんよ」

『……え、』

　忍足の強い瞳と、芯のある言葉に思わず口ごもってしまった。

何の為に、私は水川さんに喧嘩を売ったんだっけ。

誰の為に、誰を想って、自分が傷ついてまで動いたんだっけ。

　その言葉の答えに行き着いた瞬間、初めて涙が零れた。

その涙を皮切りに子供のように泣きじゃくる私を
忍足は何も言わずに泣き止むまで隣で頭を撫でてくれていた。

　もう、迷わない。

私は、彼の、跡部の自由と幸せの為に突き進む。

誰が相手だろうと関係ない。

それが私の、いいところ。

　彼が教えてくれた私の長所を胸に、現実と向き合えば
忍足は呆れたように笑った。