月光の前奏曲 -第15番- (ページ21)

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５…side:You ページ21

「跡部も大変ですね本当に」

「そうだな。まぁ仕方ないだろ。あいつんちはそういう家柄だしな」

「それにしても、次から次へと婚約の話が舞い込んでくるなんて
羨ましい限りですよ独身の俺からしたら」

「おい、不謹慎だぞお前」

「だって、イギリス令嬢ですよ！
水川でさえ羨ましかったってのに
その上をいく令嬢と婚約だなんて羨ましい以外にないでしょうよ」

　まぁなと笑う先生の言葉にノートを落とした瞬間、
バサバサっという音に反応した彼らがこちらに振り向いた。

「うぉ、A。なんだお前、どうした急に。
なんでいるんだ」

『……』

「……A？どうかしたのか？」

『……あ、いえ。ごめんなさい、手が滑っちゃって。
あっ、これ、古文のノート置いていくんで
先生に伝えといて貰えますか？』

「あぁ、なるほど。了解」

　かき集めたノートを机に置き踵を返した瞬間、
こないだ生徒会室で怒られたドイツ語教師と目が合った。

何も言わない彼は、
きっと私がなんでノートを落としてしまったのか
分かっているようで軽く頷きながら私から視線を逸らした。

　なんで、そんな哀れみみたいな目を
向けられなきゃいけないのよ。

そう言ってやろうと思ったのに、
噛み締めた唇は開こうとしてくれなくて
飛び出すように教務員室を後にした。

飛び出した先に見えた忍足が、
私を見つけるや否や面を食らったような表情を見せた。

「ど、ないしたん自分。そんな急いで」

『……忍足が言う事は、正しかったよ』

「……へ？正しい、って何が」

『跡部が言った、ごめんの意味。
忍足が言う、それで、合ってた』

「は……？」

　唇を噛み締めたまま、動かなくなった私を見た彼は
とりあえずここじゃなんだからと突っ立っていた廊下から
中庭へ場所を変えた。

そこで、教務員室で聞いた話を彼にしてやれば、
忍足も言葉を失っていて。