第五十八章【MASK】side:Keigo.A ページ17
……本当にこの女は。
自分に抱きついたまま寝息をたて始めた彼女に
沸いた欲を払うために羊を数え始め
漸く眠りにつけたのはまだ良かった。
ただ、そんな状態かつこんなくそ狭いベッドで
満足に寝られるはずもなく勝手に目が覚めた今の時間は朝の4時。
飽きもせず自分に擦り寄ってくる彼女に
抱いた感想が上記したそれ。
本当にこの女は以外に言い様がなかった。
なんで待つなんて言っちまったかなと
自分らしくもないセリフを余裕綽々に言ったことを後悔しつつも
自分に巻き付く腕を起こさないようにそっと外したあたり
また積もった苛立ち。
別に彼女に対してとかじゃなく、
たかだか1人の女にここまで気を遣っている自分に
嫌気がさしたのだ。
一昔前まではこんなんじゃなかったはずなのに。
いつの間にこんなただの男に成り下がっちまったんだ俺は。
去年のバースデーに彼女から言われた
傲慢さの欠片も無くなった自分に
自問自答を繰り返しながら隣に寝転ぶ彼女の寝顔を見つめた。
顔に少しかかった前髪を退けてやれば
無防備に目を瞑る彼女の顔がさらけだされて。
何一つ手を出さず、一緒に寝ただけで幸せを感じる自分に
漏らした嘲笑と同時に募ったのは愛。
これ以上好きになってどうしよってんだ。
王様じゃ飽き足らず仏でも目指してんのか俺は。
やってらんねぇよと精神に異常を来たし始めたところで
ベッドから降りて、ベッドルームを後にした。
かと言ってやることもない俺はもう
この煩悩で一杯の頭を冷ますべく適当に着替えて外へ出た。
まだ陽も登っていない暗がりを無心、無心と
無駄に唱えながら走っていれば
突然ポケットに入っていたスマホが震えた。
こんな朝から……？
やたらと長い振動に着信を察知して
手に取ったスマホのディスプレイに
表示された名前を見て体が固まった。
そうか。向こうは朝じゃねぇのか。
こんな朝早くから電話が来た理由が腑に落ちた反面、
何故か沈み始めた自分の気持ちを吐き出すように
息を吐いて電話に出た。
「――――おはようございます、父さん」
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作者名：2ytluvuusham081 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/list/2ytluvuush1/
作成日時：2020年10月25日 2時
