月光の前奏曲 -第15番- (ページ16)

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１４…side:You ページ16

『……あの、さ』

「なんだよ」

『その、ね、寝る、時なんだけど』

「寝る時？
なんだ、お前まさかまた俺に
ソファで寝ろっていうんじゃねぇだろうな」

『や、違う！違くて、それは別に一緒でいんだけど。
その、えと、あー、うん。ごめん。やっぱなんでもない』

「……」

　……無理無理！！

まず言えないって！！

シたくないどころか、
そういうことするのなんて聞けないよ！！

そもそもそれ聞いちゃったら
なんか逆に期待してる人みたいになるじゃん！！

納得がいっていないような顔をする跡部に
背を向けて1人でテンパり続けていれば
はぁ。と後ろから小さいため息が聞こえた。

え、嘘。バレた？

もしかしてまた顔に出てた私？

　まさか怒らしたかと恐る恐る振り返ると、
怒るどころか呆れたように笑っていた跡部を見て唖然とした。

バレたわけじゃないのかと
首を傾げながらなんで笑ってるのかと聞けば
彼はふいっと顔を逸らした。

え、やっぱ怒ってんの？

「……待ってやるよ。お前がいいって言うまで」

『ま、つ？待つって、何を』

「お前が考えてるソレ。
お前の覚悟が決まるまではしないでおいてやる」

『……！！』

　予想外すぎた。

まさか、あの跡部が、
万年さかり期なはずの男が待つだなんて言うと思わなくて
呆気にとられ勝手に目と口が開いた。

　そのまま固まった私から漸く絞り出た言葉は、
性懲りも無く「誰だお前」という減らず口で。

仮にも好きな人どころか恋人だというのに、
死ねの一言で返しを済ませた彼は
嘲笑いながらベッドルームへ消えていった。

　いや、違うか。

好きな人だから、大事に思ってくれてるからこそ、
彼は待つだなんて言ってくれたんだ。

その事実に気づいた私は、ソッコーお風呂に入って
ベッドルームでスマホを弄っていた彼に躊躇いなく飛びついた。

うぜぇ重い離れろと口では突き放す彼も
私を無理に引き剥がそうとはしない。

むしろ巻きついてきた腕で離れられないのは私の方。

　あぁもう。好き。大好き。

まだそれを口には出来ないけど、いつか言える日が来たら、
その時がきっと彼を受け入れられる時だ。

自分の為にも、彼の為にも。

そんな日が来る事を祈って、
来年も再来年も一緒にいられる事を祈って
彼に愛の言葉の代わりにキスを落とした。

『――――生まれてきてくれて、本当に、ありがとう』