月光の前奏曲 -第15番- (ページ15)

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１３…side:You ページ15

食べた事ないと言えばいいものの、
自分がしたことが無いものを
正直に言いたくない彼は本当にプライドお化け。

素直じゃないのはどっちだっての。

　いただきますもないまま、
箸に挟んだレンコンをじっと眺めたと思えば
恐る恐ると言わんばかりに
口に運ぶ彼を見て思わず笑ってしまった。

どこまでも疑い深いというか、なんというか。

毒なんか入れてないから大丈夫だよ。

　モグモグと口を動かしたと思えば、感想もなしに
もう1口齧った彼についに笑い声が出た。

『お口に合いますか、坊っちゃま』

「……まぁまぁだな」

『あらそう。なら食べなくていいよ』

没収！と料理を自分の方に寄せようとすれば
それは違うと私の手を振り払った彼を見て、
彼の言うまぁまぁは美味しいの意だということを知る。

これから素直じゃないって言われたら
どの口が言ってんだって返さねば気が済まんなこれは。

　食べ終わった後、後片付けをし始めた私の頭は
また悩みを抱える羽目となる。

だから、ベッドひとつしかないんだってば。

既視感のある問題に直面して1度洗い物の手を止めた。

まぁ、一緒に寝るのはもう抵抗すら無くなってくるくらい
寝ているからそこは目を瞑るとしても。

私、全国大会でとんでもないこと口走ってしまった気がする。

付き合ったらどうたらこうたら言った気がする。

　ただ、あれはあの時逃げる為についた嘘であって。

流石に今日の今日でそんなこと出来ない。

私はそこまで軽い女ではない。

というのはただの名目で心の準備が
出来ていないだけなんだけども。

　でも絶対言ってくるよな。

だって付き合ってない時でさえあれだもん。

付き合ってしまった今断る理由がないもんな。

いやでも無理よ。絶対無理。
なんなら1年経っても出来る気がしない。

　私にはキスで精一杯。

しかもフレンチの方。それ以上は心臓が持たない。

彼には悪いが、馬鹿正直に伝えるしかあるまいと
分かり合えることを信じてお風呂から戻ってきた跡部に声をかけた。