月光の前奏曲 -第15番- (ページ13)

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１１…side:You ページ13

のはいいのだが。

冷蔵庫と睨めっこをする私なんか
微塵も興味がないようにソファで寝転ぶ彼は
1回来たというのに部屋まで靴で上がろうとした上に
家に入るや否や腹減ったからなにか作れと命令されれば
またふつふつと湧き上がり始める忍足への憤り。

　別にご飯を作るのはいい。そこはまだいいとして。

ただこうなるんだったら事前に教えとけよまじで。

まぁほぼ毎日お弁当は作ってるし、
一人暮らしな時点で料理自体出来ない訳では無い。

出来ない訳では無いんだけど。

舌の肥えた跡部が満足できるようなものを
作れるほどの材料なんてうちにある訳もない。

かれこれ数分冷蔵庫を開けっ放しにしながら
中を見つめ続ける私は節電意識や環境問題なんぞ
どうでもよくなっていて。

　漏れ出る冷気に怒りで熱帯びた頭を冷やせば
この際卵かけご飯でも出してやろうかと、今度は荒み始めた頭。

もう聞くか、めんどくさい。

『ねぇ跡部』

「なんだ」

『何食べたい？』

「……それ言ってなにか意味あんのか」

『え、うん。だって、何好きで嫌いかも分からないし。
もしかしてなんでもいいとかそういうタイプ？』

「そうじゃなく、
俺が言ったもんがお前に作れんのかって聞いてんだよ」

『……なるほど』

　彼の言う事は最もである。

なんならさっきまで私は分かっていたはずなのに
何故彼に聞こうと思ったのか。

学園の食堂のメニューでさえ何が何だか分からなくて、
毎回何が出てくんのかと恐れ半分で注文しているというのに
彼に言われたメニューが作れる訳が無い。

肉じゃがとかカレーとかそんな庶民よろしい料理が彼の口から
飛び出すとも思えんしな。

　ん？庶民……そうか。
むしろ庶民の料理を食わしてやればいいのか。

庶民の料理なんて彼からしたら逆になかなか食べられんだろうし、
いい機会だからそれこそ家庭料理を作ってやった方が
おもてなしになりそうだ。

そうだ、そうしよう。