月光の前奏曲 -第12番- (ページ49)

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７…side:Akaya.K ページ49

跡部さんが何かを言いかけた刹那、
遮るように入ってきたのは置いていかれていた
跡部さんの連れの女の人。

水川さん、と呼ばれた彼女は
跡部さんをファーストネームで呼んでいて
跡部さんに絡ませる腕が明らかにただの
関係ではないことを物語っていた。

「あら、Aさん……だったかしら」

『そう、だよ。こんばんは、水川さん』

「こんばんは」

　知り合いなのか。

完全に蚊帳の外になりつつあった
俺は水を差さずに彼女達の会話に耳を傾けるが
不穏な空気が流れるそこに思わず唾を飲み込んだ。

『ほら、彼女も来たんだし。行けば？』

「いや、だから俺は、」

『いい！聞いても何も変わらないから』

「いいから話聞けよ！」

「もういいじゃない、景吾。
ほら、彼待ってるから。
うちの景吾が彼女捕まえちゃって
ごめんなさいね彼氏さん」

　無表情のままのA先輩に対して、
不敵に笑った水川さんはすごく余裕があって
美人さながらの迫力だと思った。

突然話を振られたことに、恋とはまた別の
高鳴りを見せた俺の心臓は今にも破裂しそうで。

　何も言えずに視線を落とせば、
A先輩の手が少し震えているのが分かった。

その手を見て、拳に力が入ったのを感じる。

「おい、何を勝手に言ってやがる。
俺はテメェのモンになった覚えはねぇよ。
ただ親が決めた婚約者ってだけじゃねぇか」

「あら。素直じゃないわね」

「はぁ？別に照れ隠しとかじゃねぇっての。本当に、」

「……ねぇ、A」

『……っえ！？』

「せっかく俺とデートしてんのに、
彼氏ほっとくのやめてくれる？」

『赤也くん……！？』

「跡部さんも跡部さんっすよ。
見りゃ分かることいちいち聞かないでください。
僻みだかなんだか知らねぇけど、
恋人同士の時間邪魔しないでくれます？
こっちはまだ部活があって、Aと
いられる貴重な時間をアンタ達に割いてる暇ないんで」

「おい、切原テメェ、」

「じゃーね、跡部さん。
せいぜいそっちはそっちで楽しんでくださいよ。
ほら、A行こ」

『あ、ちょ、待ってよ赤也くん！』

　強引に彼女の手を引けば、
ヨタヨタしながらも必死についてくるA先輩は、
やっぱりここにいる誰よりも可愛い。

あんな女、比じゃないほど。

どうだ、羨ましいか跡部さん。

　きっと、後ろで俺達の背中を見ているであろう
跡部さんに対して初めて感じた優越感に
心の中でそれを言葉にした。

そして、初めて繋いだ彼女の手は
身長さえ俺とほとんど変わらないのに
小さくて柔らかい女の子の手をしていた。