月光の前奏曲 -第12番- (ページ42)

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２０…side:You ページ42

ニヤッと不敵に笑いながら私の顔を見た跡部は
やっぱり俺の事好きになってんだろと
言われているような気がして、
せめてもの反抗に顔をこれでもかと逸らしてやった。

『別に！！どうせ面白い玩具くらいにしか
思ってないだろうから聞きたくないです！』

「そんなこと思ってねぇよ……
お前は俺のことどんな風に見てんだ」

『ドSで意地悪で傲慢な王様』

「お前な。
……でも、お前はそんな俺様を
好きになっちまったってわけね」

『だから好きじゃないって言って……！！』

　言いかけたその言葉が、風に流れていく。

いい加減腹立たしいなと全力で否定するつもりで
逸らした顔を彼に向けた瞬間、
跡部に私の髪の毛を1束手に取られて。

意味もなく思えたその仕草に思わず口を噤んでしまった。

　少し目を伏せて掴んだ私の髪束を見つめる跡部は、
先程の悪戯な笑みを消して、
思い詰めたように目を瞑り私の髪にキスを落とした。

訳もわからないキザな仕草すら、
様になる跡部は唇を離さないまま目を開いて、
私の目を上目遣いをするように見た。

　彼はメデューサでもないというのに
石になったように動かない私を見て満足そうに笑うと
静かに手を開き、風に乗せるように私の髪の毛から手を離した。

まるで、至極愛しいものを
手放すかのように、忘れるかのように。

「……お前は、幸せになれよ」

『え……？』

　眉尻を下げながら笑う跡部は、まるで泣いているようで。

なんとか紡ぎ出した私の声を聞いた彼は、
私の横をすれ違うようにすり抜けてそのまま歩いていった。

　なに、今の。なんなの。

なんで、私の髪にキスなんかしたの。

なんでそんな悲しい顔するの。

お前は、ってまるで自分は
幸せになれないみたいな言い方じゃん。

幸せになれって、自分は
蚊帳の外みたいな言い方じゃん。

じゃあ、跡部は？

アンタにとっての幸せってなんなの？

　言いたいことは沢山あるのに、
あまりに唐突な彼の行動に頭がついて行かずに
立ち尽くすだけの私を気にも留めず離れていく彼に
何一つ理解ができない。

　ただ、唯一わかったのは。

彼に婚約者がいるという噂が事実に変わったということと、
今この時をもって、私の恋が終わったということ。

　彼なりのサヨナラに気づいて振り返った時にはもう遅い。

確かに居たはずの彼が颯爽と姿を消したそこは、
日が沈んで薄暗く淀む人1人居ない
孤独な景色が広がっているだけだった。