月光の前奏曲 -第12番- (ページ37)

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⑧side:You ページ37

私、跡部にプレゼント返し忘れてる！！

なんで持ってきちゃってんの！？ばかなの！？

　これがクリスマスのプレゼントなのだとすれば
きっと彼は今日か明日これを渡す相手に会うはずだ。

やばい、やばい。

早く呼び戻さねば。

このタイミングで早々に気づいてよかったとばかりに
ガラクタと呼ぼれたスマホで跡部に電話をかける。

『あ、跡部！
ごめん、私プレゼント返すの忘れてた。
悪いけど戻ってきてくれない？』

「……断る」

　待ってましたと言わんばかりの速さで
ワンコール鳴らしただけで出た彼に
捲し立てるように伝えれば、
感情の読めない声色で否定された。

え、なに？どういうこと？
走って持ってこいって言いたいんかこいつは！

　嘘だろ、と思いつつも
自分が悪いので何も言い返せず慌てて玄関まで戻り、
走りやすいスニーカーに履き替える。

何が楽しくて、
世間がピンク1色のクリスマスイヴに
私だけランニングせないかんのだ。

　街を歩いている時、
手を繋いで幸せそうに歩くカップルを見つめた私に、
「羨ましいのか？繋いでやろうか？」と
バカにされるように言われたその言葉に
そんなわけないでしょと強気で返したあの頃が懐かしく思える。

　この際、正直言おう。

くそほど羨ましい。

こんな寒い夜にランニングするくらいなら
私だって好きな人と手を繋いで街を歩きたい。

なんならあの時の跡部の言葉に甘えて
気分だけでも味わっときゃよかった。

　色々な苛立ちに任せて
「じゃあせめてそこで待っとけ！」とだけ
捨て台詞のように告げ電話を切った。

冷たい風を切って走り出せば、
2つ目の曲がり角を曲がったあたりに
閑静な住宅街に似合わない黒塗りのベントレーの
ハザードランプがチカチカと点滅していた。

良かった、思ったより遠くなかった。

っていうか、もしかしたら気づいて止まってたのでは
無いかと思うくらい近くに止めてあって。

性格悪すぎか！
未だに姿を現さない男に益々いらだちが募る。

　仕方なく車の横まで走り、平然と窓を開けて
横目で私を見る跡部は遅ぇと言いたげな瞳を向けていた。