月光の前奏曲 -第12番- (ページ26)

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１４…side:Keigo.A ページ26

波に攫われて溺れちまったら、
尖る岩山にぶつかっちまってたら。
考えただけで、全身から血の気が引くのが分かった。

　そんな時に浮かぶのは、皮肉にもあいつの笑顔で。

あの憎まれ口が聞けなくなると、
あの屈託のない笑顔が見れなくなると思ったらそれだけで
心臓が破裂しちまうんじゃねぇかってくらい苦しくなった。

かと言って、俺まで海へ飛び込んで
何かあったとしたらあいつもガキも、
助かる可能性は0になるだけで。

　柄にもなく、神に縋る気持ちで
追いかけた先から顔を覗かせれば、
ガキを脇に抱きしめながら岩に捕まるAの姿が見えた。

最悪の状況が打開されたことに安堵したのもつかの間、
聞いたこともねぇ様な悲鳴に近い声で呼ばれた自分の名前に
咄嗟に手を差し伸べれば、ガキだけを寄越してきやがった。

　おい、お前はどうすんだよ。

そう問いかけようとしたが、
とりあえずは目の前のこいつを助けないと
あいつがした事が無駄になってしまう。

すぐ飲み込んだ海水を吐き出させると
少しえづきながらも自然な呼吸に戻った。

背中をさすってやれば、落ち着きを取り戻したようでほっとした。

「……おいチビ！！なんで危ねぇって分かんねぇんだ！！
あいつが海に飛び込まなきゃ、テメェ死ぬとこだったんだぞ！！」

　ヘラっとした顔で
ありがとう、とお礼を言ったそいつの肩を掴み
捲し立てるように声を荒らげれば、
ひっ、と泣きそうになりながら目の前のこいつは震えていて。

拳のひとつでも食らわしてやりたかったが、
相手はまだ小さな子供でそれはさすがの俺も出来なかった。

「……親はどこだ」

「わ、わかんない……遊んでたらは、ぐれちゃった」

　さっき俺が怒鳴ったせいか完全に萎縮していた
こいつは拙い言葉ながらしっかりと答えた。

迷子か。

きっと親も血眼になって探しているだろうが
プライベートビーチと言えど、
こんな小さな子供が岩陰に隠れてちゃ
探しても見つからないのに無理はない。

ちっ、と舌打ちをすれば
またもやびくっ！と震えた小さな体。

「……行くぞ」

　ぶっきらぼうに手を差し伸べれば
おずおずと俺の手をとるガキの手が思いのほか小さくて、
この小さな命を守ったあいつを心から尊敬したと同時に
代わりに自分の命を粗末にしやがったAに一言言わねぇと
俺の気は収まらなかった。