月光の前奏曲 -第12番- (ページ12)

今日:9 hit、昨日:11 hit、合計:19,424 hit

５…side:You ページ12

……え、なに。

なに、これ。

なんで、私、抱き締められてるの。

　いつものように軽口を叩いてやりたいのに、
苦しいくらい強く巻き付く腕に何も言葉が出てこない。

頭が、真っ白になる。

呆然とされるがまま、彼の体温を感じていれば
私の肩口から彼の声が聞こえた。

「俺も、お前に救われた」

『……え？』

「お前がいたから、強くなれた。
お前がいたから、夢が叶えられた。
今日勝てたのは、お前のお陰だ」

『……別に私は、何も、してないけどね』

「……相変わらず素直じゃねぇなぁ」

　この俺が普段言いもしない礼を言ってやっているのにと
笑う跡部の背中に手を回して軽く抱き締めてやれば
やり返しとばかりにぐっと腕の力を強められた。

同じようにできる限り力を入れると、
まだまだ本気でなかった様子の跡部は
私を絞め殺そうとしているのではないかと
思えるほど強い力を入れてきて。

思わず、ぐぇ、と声を漏らした。

『ま、待って！さすがに、苦しい、て！！』

「お前がやり返してくるからだろ」

『……くっそ、私が女じゃなかったら、絞め殺してやるのに！』

「女じゃなかったらこんなことしねぇっての」

『ちょ、ま、本当に死んじゃうって、離して！ 1回、離して……！』

「ハッ、やなこった」

『ぐぅ……！！まじで、苦し……！！』

　私が苦しむ姿を見て楽しそうに笑う跡部は
本当に性格が悪いと思った。

本当に性格が悪くて、サディストで、自分本位。

最低で、最強な、私のヒーロー。

　想いは伝えられなくとも、
恋人になれなくとも、私の大事な人には変わりない。

　それでも、いつか。

この想いが届く日が来ますように。

　彼らの夢も、私の夢も叶った今日という日は一生忘れない。

輝く夏の1日はこうして幕を閉じた。