真夏の月 (ページ3)

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「え、あの、大丈夫ですか……」

慌てて起き上がり、恐る恐るうつ伏せで倒れているその人の肩を叩く。肩は華奢で、それが手に伝わると同時にひやりとした。踏みつけて怪我でもさせてしまったのではないだろうか。

「とりあえず起こしますよ」
「うう、」

微かな声から、あまり歳の違わないくらいの女性ということが分かった。彼女の体を起こして壁にもたれさせる。顔色は悪いが、目立った怪我は無いようだ。

「すみません、よろしければ水を……」
「ああ、水。今持ってきます」
「少し、食べ物もいただけませんか」
「え、あー……」

どうしたものかと一瞬たじろいだが、ふらつく彼女をこのまま放り出したら死んでしまいそうな気がして、ソヌは仕方なく部屋にあげることにした。

「はあ、温かい……」

予定が狂っていく。そもそも隣人とは極力会わないようにしていたはずだし、この時間にはもう寝ているはずだった。だというのにこの状況。原因となった彼女は満足そうにスープを、……おい、よく見たらこの人めちゃくちゃ美人だな。ってバカか、これじゃ俺が下心で助けたみたいじゃん。

軽く咳払いをして、ソヌはまじまじと見ていたことをごまかすように尋ねた。
「あなたはどうしてあそこで倒れてたんですか？」
「……近頃ちゃんと食事ができてなくて、栄養失調ですかね。恥ずかしながら」

小さいテーブルの向かい側で、彼女がすまなそうに箸を置く。その顔色はもうだいぶ良くなったが、明るい場所であらわになった線の細さは彼女の(そういった面での)頼りなさを強調させていた。

「そういえばどこか痛いところないですか？俺、さっき踏んじゃったかも……」
「あんなところで倒れてた私が悪いんですから、気にしないでください。本当、ご迷惑をおかけしました」
「いや、全然迷惑なんかじゃ……」

こういう時は何をしてあげればいいんだっけ、とソヌはフルスピードで思考を巡らせた。今まで出会ったことないような女の子と、遭遇したことない状況。一応病院に連れて行った方が？俺が部屋に連れ込んだみたいに見られてたりして……と、落ち着きなく視線を動かす様子を少女は静かに見つめる。

しんとした部屋には二人が食器を動かす音だけが聞こえていた。