30段目 ページ5
体の違和感に昨夜の事を思い出し、その行為の理由に思い至ってどうしようもなく悲しくなって、目を開ける。
「おはよう」
慣れない無理矢理な笑顔で挨拶してくれる松田くんに申し訳なくなった。
「…昨日はごめん、誰かに必要とされてないと、生きる理由がないと思って…」
「…ああ。俺も、すまねぇ。自制きかなかった」
しばらくの沈黙があって、松田くんが言った。
「よし、この話はこれで終わりだ。適当に朝飯作るから、格好整えてから来い」
それからしばらく、私は松田くんの家でお世話になった。
忌引きで仕事を休んでいる間、お葬式なんかで身体中の水分が枯れるくらい泣いた私を、松田くんは毎日支えてくれた。
この家に来た初日以来、必要以上の接触は一切無くて、ただ一人で居ると壊れそうな者同士で支え合っていた。
自宅に帰るといるはずの人が居ない寂しさに襲われそうで、しばらく一人では帰れなかったからだ。
ひと月ほど同居して、私がやっと家に居られるようになったとき、心配だからとなぜか松田くんが隣の部屋に引っ越してきた。
「そこまでしてくれなくても大丈夫だから」
そう言って止めたけど、
「俺が勝手にやってんだよ、気にすんな」
そう一蹴されてしまった。
そうして、ここに奇妙な共同生活?が始まったのだ。
…松田くん過保護。
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作者名:藍原春陽 | 作成日時:2019年10月31日 15時