29段目 ページ4
体の下で彼女が果てて、やっと我に返った。
…すまねぇ、萩原。
「…じゃあ抱いて」
「………はあ?」
「…お願い」
浴室から連れ出したタオル一枚の、かなり好意を持っている相手に、迫られる。
諸々の事情が吹き飛んで、男としての本能が勝つのに時間はかからなかった。
お互い理性が働いていない行為の最中、俺と萩原を重ねているのか、柏崎は泣きながら何度も「研二くん」と呼んだ。
誰に対してか「ごめん」とも。
隣で眠る彼女から目を離さないように、でも本来見るはずのない肌色からは目を逸らし、布団から抜け出し、服を着る。
「っはぁーーー。」
深く息を吐き、感情の整理をする。
親友がこの世を去った。それは悲しいことで、犯人は絶対許せないヤツで。
では今すべきことは親友を悼むことと、できるだけ早く犯人を捕らえること。それと、親友の妻の心のケア。
つまり、親友の安らかな眠りを祈るのはいいが、彼女の前で泣いてはいけない。悲しんだり後悔したり、マイナスになってはいけない。
ゆっくり目を開けた柏崎の表情が、昨日のような茫然自失のものではなく、ちゃんと悲しむものになっていることに、安堵する。
「おはよう」
できるだけ明るく声をかけた。
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作者名:藍原春陽 | 作成日時:2019年10月31日 15時