43段目 ページ18
松田くんがいなくなってから、2週間ほどが経った。
食事をする気力はなかったが、水や栄養食品でかろうじて命を繋いでいたのは、他でもなく二人の男の存在があったからである。
市民の為に人生を全うした彼らのことを思うと、自分の命を蔑ろにはできなかった。
短時間のパートを終えて帰宅するとき、何故かなんとなく家に帰りたくなくて、遠回りをすることにした。
午後4時、夕焼けの中にある公園には、親子連れの楽しげな声が響いていた。
ああ、あんな幸せもあったのかな。
そんな和やかな光景を眺めながら、彼らが生きていれば、なんて実現しない未来を思う。
「もっと一緒にいたかったなあ」
久しぶりに出した声は掠れ、震えていた。
熱くなる目元を押さえ、あったかもしれない日常に背を向けて歩き出したその時。
「あ!」という叫び声と車の音。
家に向かって踏み出したはずの足は、気がづくと車道に飛び出していた。
子供特有の暖かくて柔らかい体を思い切り突き飛ばすと、栄養不足かつ運動していないAの体はそこで力尽きた。
大きな衝撃と共に数名の悲鳴が聞こえたが、すでに意識は薄れていた。
「大丈夫ですか!」「きこえますか!」「救急車!」
「こら、〇〇!危ないでしょうが!……無事で良かった。」
ほんとうに、無事なら良かった。
気に病まずに、命を大事にしてね。
ねえ、研二くん、松田くん、私も人を守れたよ。
二人に恥じない生き方ができたよ。
夕焼けの赤の中、倒れたまま微笑むAの上には天使の梯子が伸びており、いっそ神々しいほどだった。
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作者名:藍原春陽 | 作成日時:2019年10月31日 15時