5 ページ5
.
彼が私なんかの名前を覚えていてくれた。彼の中に少しでも私という存在がいる、という事実に私は舞い上がった。
彼の傘に二人で入る。
体と体がくっついてしまうこの状況にひどくドキドキした。
駅まではほんの数分しかなかった。けれど、その数分の間に彼と会話をすることができたのだ。
「どこらへんから通ってるの？」
「高校はどこだった？」
「俺今日の授業ほとんど寝ちゃったんだよね」
当たり障りのないことだった。
けど私にとっては夢みたいな時間だった。
好きな人とこんなに近い距離で話せているなんて。
女子校出身で恋愛経験ゼロの私は彼の優しさに舞い上がってしまって少しばかり勘違いをしてしまったんだ。
可能性があるのではないか？って。
あるわけないのに。
駅に着いて、
「雨弱まったね。通り雨だからすぐ晴れると思うよ。でも一応俺の傘いる？」
紫耀は自分の傘を私に差し出しながら首を傾げた。
「ううん。大丈夫…」
この人の優しさ一つ一つに心が動かされてしまう。
「そっか。じゃあまたね。気をつけて」
彼はひらひらと手を振ってくれた。
このまま大人しくこの場を去ればよかったのに、私はどうにも気持ちを抑えられずつい言ってしまったのだ。
「あの、！」
「ん？どした」
「えっと…その…」
自分から声をかけておいて言葉を詰まらせる私に彼は嫌な顔ひとつしなかった。
「ふふ。どうしたの？」
意を決して私は口を開いた。
「平野くんが、好き…です…」
小さな声だったと思う。けれど届いてはいるはず。
「Aちゃん。ごめんね」
“ごめんね”
たった4文字で私は振られてしまったのだと理解した。
初めての恋はあっけなく終わってしまった。
泣きたい気持ちを必死に抑えて
「そう、だよね…」
「でもAちゃんの気持ちは嬉しいよ」
もうそうやって優しい言葉をかけないでほしかった。
「急に好きとか言ってごめんね…じゃあ…」
私は恥ずかしさと悲しさから彼を見ることができず、走ってその場から逃げた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1486人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
來(プロフ) - やんやんさん» とっても好きな作品と言ってもらえてとても嬉しいです(^^)切ないですよね…。これからも切ないシーンが出てくると思いますがお付き合いお願いします(>_<) (2020年10月6日 23時) (
レス) id: 77d7f96759 (このIDを非表示/違反報告)
來(プロフ) - munさん» 二人とも好きな人が原因で辛くなってるんですよね…。自分でも書きながら切な！！って思ってました… (2020年10月6日 23時) (レス) id: 77d7f96759 (このIDを非表示/違反報告)
來(プロフ) - 初子さん» はじめまして。ドキドキをお届けできているようでよかったです！ありがとうございます(TT) (2020年10月6日 23時) (レス) id: 77d7f96759 (このIDを非表示/違反報告)
やんやん(プロフ) - いつも涙ポロポロ出しながらぎゅーんと切なくなりながら見ています（ ; ; ）とっても好きな作品です。 (2020年10月6日 21時) (レス) id: 97979cb1f9 (このIDを非表示/違反報告)
mun(プロフ) - 44ページの最後、お互い苦しいでしょうね・・・平野君にとっても嫌だし、それを聞いてしまった夢主も嫌だろうし・・・なんだかとても切ないです。 (2020年10月5日 17時) (レス) id: 0e3b0babab (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：來
| 作成日時：2020年9月16日 22時
