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阿部くんの口から出た金木犀って言葉に、ようやく自分も外側へ意識が向く
意識すればスーッと自分の中に入り込むどこか懐かしくも優しい匂い
よくここまで意識できなかったなと、阿部くんと自分の感性の落差に苦笑した
「弁当と匂いが混ざって大変そう」
そう一言呟いた阿部くんは、やっぱり私とは違う感性の持ち主かもしれない
それは、理解を超えた好奇心の話
「ふふ、それは考えてなかった」
「だって、味覚は95％の割合で嗅覚で感じ取ってるんだよ？」
「ごめん、何の話？」
「うんちく。最近知った」
「じゃあ、私は味覚音痴ってことかな？」
しばらくの沈黙
そして笑い声
彼と話した本当に僅かな時間
たったそれだけで私はこんなにも違う世界を見れる
彼と私の向くベクトルの方向の違いがそうさせているんだろう
人は自分と違う人を嫌悪するけど、
私はむしろ逆かもしれない
彼が私に感じさせる世界はどこか突飛で、優しい
そう私に思わせるのもまた、彼がこうして隣で笑っていてくれるからだろうか
一人で過ごす時間より、二人で過ごす時間のほうがずっと短い
昼休みはあっという間に過ぎてしまい、私達はどちらからともなくベンチから立ち上がった
「じゃあ」
「うん、またね」
阿部くんはそう言って、私に背を向けて歩き出した
呆気ないさようなら
その背中の頭上に咲くのはオレンジの小ぶりな花
その匂いの強さと反比例するように咲く小さな花たちが風に揺れ、その隙間をぬって阿部くんの背中に木漏れ日が差す
風に運ばれたあの匂いが自分の鼻を掠める
すごく綺麗な光景だと思った
だから無性に泣きたくなったのかもしれない
もう一度その姿を目に刻もうとしたけど、それには阿部くんの背中は遠すぎて
彼に習うようにして自分も大きく深呼吸した
金木犀の匂いを嗅いだとき、この綺麗な光景を、この感情をいつでも思い出せるように
プルースト効果が自分に与える影響の大きさを信じてみたくなった
帰ったら、金木犀について調べようかな
ミーハーな女かよって自分で自分を笑いたくなったけど、
そうすれば、もしかしたら阿部くんって存在に少しでも近づけるのかもしれないって
そこまで考えて、いや、さすがにそれは気持ち悪いなと我に返り、
誰にも言ってない秘密の計画はものの数秒で砕け散った
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なむる。(プロフ) - You∞さん» コメントありがとうございます！まさかそんな運命的なことが…この小説を通して私も素敵なお話に巡り会えて嬉しいです(・∀・) (2021年1月16日 19時) (
レス) id: 74f22f9e0f (このIDを非表示/違反報告)
You∞(プロフ) - はじめまして。自分の身近に起きたことに似ていて、びっくりしました…ただ私の場合は、私も彼も独身で、答え合わせは同窓会でしたが(笑)。このお話を読んで、あの頃の私は本当に彼が好きだったと、改めて気づきました。ありがとうございました。 (2021年1月16日 10時) (レス) id: ef0b5894b5 (このIDを非表示/違反報告)
なむる。(プロフ) - コメントありがとうございます！大人になっからこそ分かる感情だったり、幼いからこそ答えを出せなかった恋心ってのをテーマにしてみました^_^頑張ります！ (2020年9月16日 7時) (レス) id: 74f22f9e0f (このIDを非表示/違反報告)
雪の王子様 - 今回のは少し切なめ？なんですね。亮平くん、本当はまだ好きだったってことでしょう？まあ初恋は叶わないって言いますからね。とにかく面白かったです。素敵なお話ありがとうございました。これからも頑張ってください。 (2020年9月16日 2時) (レス) id: a501c8742d (このIDを非表示/違反報告)
なむる。(プロフ) - 詩乃さん» コメントありがとうございます！ただただ嬉しいの一言です:-) ちょっとしたワンシーンにもこんな素敵な言葉が頂けて…楽しんでいただけて嬉しいです！ありがとうございます (2020年8月19日 5時) (レス) id: 74f22f9e0f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なむる。 | 作成日時：2020年8月6日 12時
