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私がその足音を認識してすぐ、狭い折りたたみ傘の中に突然人が飛び込んできたからかなり驚いた
慎重に進めていた足が思わず止まる
人は本当に驚くと声が出なくなるらしい
一人でも狭いと感じる空間が、二人だと余計に狭く、えらく熱っぽい
突然飛び込んできた人の学生服が私の右肩を濡らす
反射的に隣を見ると、その人物は困ったように笑っていた
「良かったー、松田さんだ」
前髪から雫を垂らしながら、そう言ったのは少し息を弾ませた阿部くんだった
初めて呼ばれた私の名前はびっくりするくらいに彼には似合わず、それでいてむず痒い癖に
目の前で笑う彼はどこか物憂げで
この天候がそうさせているのかもしれないけど、彼の濡れた前髪の隙間から見える瞳は、私が知っているそれより幾分か暗かった
「びっ、くりしたー…阿部くんだ」
そんな彼の様子に気づかないフリをしたのは、彼と私がそこまでの距離じゃないってのを知っていたからか、彼と私の距離だからこそ黙っておいたほうが良いと思ったからか
阿部くんはゆるりと微笑んだ
「急に降られちゃったね…でも、よく傘持ってたね。今日、天気予報では晴れだったのに」
「あー、そうなんだ。私、天気予報見ないからいっつも折りたたみ傘持ってるの」
「うーん、それは賢明って言うのか」
「深くは追求しないで」
「そうする」
二人の空間に小さく笑い声が流れる
やっぱり変だと思った
小さな違和感
でも、やっぱりそれを口にするのは憚られた
阿部くんも黙っちゃうもんだから、二人して立ち止まって、その狭い傘の中、言葉を口に出したいのに、その言葉が何かも分かんなくて、戸惑う
ただそこに流れるのは、耳障りな雨音と、足元を雨が濡らす不快感と、水溜りに映る私と阿部くんを覆う傘の影
この次なんだと思う
この次、どちらかが何か言葉を発せば、この空間も、この関係も、何かが呆気なく壊れてしまうんだろうって
そんな共通概念の下で立ち止まる私達は
だからこそ、その言葉を発することに酷く臆病だった
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なむる。(プロフ) - You∞さん» コメントありがとうございます！まさかそんな運命的なことが…この小説を通して私も素敵なお話に巡り会えて嬉しいです(・∀・) (2021年1月16日 19時) (
レス) id: 74f22f9e0f (このIDを非表示/違反報告)
You∞(プロフ) - はじめまして。自分の身近に起きたことに似ていて、びっくりしました…ただ私の場合は、私も彼も独身で、答え合わせは同窓会でしたが(笑)。このお話を読んで、あの頃の私は本当に彼が好きだったと、改めて気づきました。ありがとうございました。 (2021年1月16日 10時) (レス) id: ef0b5894b5 (このIDを非表示/違反報告)
なむる。(プロフ) - コメントありがとうございます！大人になっからこそ分かる感情だったり、幼いからこそ答えを出せなかった恋心ってのをテーマにしてみました^_^頑張ります！ (2020年9月16日 7時) (レス) id: 74f22f9e0f (このIDを非表示/違反報告)
雪の王子様 - 今回のは少し切なめ？なんですね。亮平くん、本当はまだ好きだったってことでしょう？まあ初恋は叶わないって言いますからね。とにかく面白かったです。素敵なお話ありがとうございました。これからも頑張ってください。 (2020年9月16日 2時) (レス) id: a501c8742d (このIDを非表示/違反報告)
なむる。(プロフ) - 詩乃さん» コメントありがとうございます！ただただ嬉しいの一言です:-) ちょっとしたワンシーンにもこんな素敵な言葉が頂けて…楽しんでいただけて嬉しいです！ありがとうございます (2020年8月19日 5時) (レス) id: 74f22f9e0f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なむる。 | 作成日時：2020年8月6日 12時
