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記憶の片鱗に溺れていた私を呼び覚ます、無機質な電子音
目の前の大きな洗濯機の電光表示が0:00になっていた
有線放送からの音は、いつの間にかニュースになっている
「よく眠れた？」
隣に座る涼太はそう聞いてきた
記憶の片隅、そう言っていた彼と妙に繋がって、小さく頷いた
「夢を見た」
「どんな？」
「……溺れる、夢」
「、怖い夢だったね」
涼太の静かな声音は、その気持ちがあまりこちらに透けてこない
あの日から変わらず私の隣に居る彼と、私と
紡ぐ時間の長さは、もう会わない彼が望むものだったのかな
あの、あまりにも色鮮やかで、あまりにも残酷で、それでいて未完成だった空間から、私達は果たして抜け出せたのかな
確かに、あの空間は私達を変えたし、決定的に私達を形作るものを変化させた
その記憶から抜け出せないのは、
私なのか
涼太なのか
暫く足の力を溜め、漸く腰を上げようとした時、不意に涼太が私の腕を引いた
ぐらりと揺れる視線
引き戻される世界
涼太の真っ黒な瞳が、私を真っ直ぐと捉えていた
あの瞬間から抜け出せていないのは、もしかしたら、彼の方なのか
「心を、壊さないといけないのかもって、思うんだ」
「どんな？」
「次の、恋をするには」
やはり、囚われていたのは
私でも
あの人でもなく
彼だった
不意に、唇が重なった
それは、私からなのか
彼からなのか
そんなの、分からないけれど
酷く無骨で、それは、まるで
「愛してる」
涼太の口唇は、赤に染まっていた
あの記憶を、呼び覚ます
それは、執着の証
ならば、彼を囚えていたのは
私と、あの人の姿が重なった
その美しい口唇が孤を描き、いたずらに笑ってみせた
その正体が見えそうで、
曖昧に隠すように
私と涼太は再び口付けを交わした
どこかの知らない誰かが、この物語を美しいと言うのだから
Fin.
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なむる。(プロフ) - のんさん» コメントありがとうございます！この作品自体を美しいと言っていただけること…これ以上に嬉しいことはないです！また新しい作品でも出会えること願ってます。ありがとうございます！ (2021年2月10日 6時) (
レス) id: 74f22f9e0f (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 凄いという言葉しか出てこない、語彙力の無い自分が恨めしいです。セリフや文章表現の仕方など、とにかく美しい作品をありがとうございました。 なむる。さんの作品が大好きなので、これからも応援しております。 (2021年2月10日 1時) (レス) id: bdef6e19e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なむる。 | 作成日時：2021年1月14日 22時
