検索窓
今日:3 hit、昨日:5 hit、合計:19,084 hit

26. ページ26

Sakuma side.




「Aを、自由にしてあげてください」


宮舘って男

その程度の認識だったヤツに言われた時、

あぁ、漸く逃げられるんだ

そう思った


何から、なのかは分からないけれど


Aちゃんの待つ家に向かった

マンションの下から彼女の部屋を見上げて、そこがもう明かりがついていないことを確かめて

スペアキーで開けた部屋は、真っ暗でも何がどこにあるかなんて分かる

窓際のベッドの上、彼女が寝息を立てていることを確かめた

大事なものだけバックに詰めて、再びベッドの方に歩みを進める

月光に照らされた彼女は静かに息をしていた


良かった

この人が、生きていて


きっと、もう二度と会わないであろう彼女の形を、ゆっくりと目でなぞった

好き、とか、嫌い、とかそんなものではない


もっと、ずっと、特別で、神聖なもの


俺が思い出す君は、きっとそんな人なんだ


だから、君は、都合の良いようにこの物語を色付けして、こんな男居たなって笑えるくらいになって

こんな男に不抜けてたら駄目だよ

君は、幸せになるべき人なんだから


悔しいよね

こんなの、俺が言いたかったよ

でも、君にとってこの言葉は俺がこの世界で最も口にしてはいけないヤツだから


不必要なら、捨てても良いんだよ

こんな男の断片なんて

思い出しても埒が明かない

癒えない傷を、俺が知らない時に抱えてほしくないから

その傷を付けた俺が、その傷を癒せないんだもの



「さようなら」



彼女には触れられなかった

もう、俺の中に彼女を象ってはダメだから


最後に見た彼女

その口唇を彩る色、もう少し先も見てみたかった、なんてね


鍵をかけ、スペアキーは彼女の家のポストに入れておいた

知った道を、俺は宛もなく歩き出した

もう、歩くことのないだろうこの道は、案外好きだったのにな


ただの他人だったら

きっとこんなにも誰かを傷付けなかったし、傷付かなかった

でも、彼女と俺がこうして傷をつけ合い、傷を舐め合うのは生まれたときから決まっていたものなのかもしれない

ままならない感情を沢山、沢山抱えて、その通過点の一瞬に俺達は出会って


きっと、この時じゃなかったら


まあ、そんなもしもの話はやめておこうかな


俺と、Aちゃんは


赤の他人で


とても鮮烈な感情の形






.

27.→←25.



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (62 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
172人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

なむる。(プロフ) - のんさん» コメントありがとうございます!この作品自体を美しいと言っていただけること…これ以上に嬉しいことはないです!また新しい作品でも出会えること願ってます。ありがとうございます! (2021年2月10日 6時) (レス) id: 74f22f9e0f (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 凄いという言葉しか出てこない、語彙力の無い自分が恨めしいです。セリフや文章表現の仕方など、とにかく美しい作品をありがとうございました。 なむる。さんの作品が大好きなので、これからも応援しております。 (2021年2月10日 1時) (レス) id: bdef6e19e8 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:なむる。 | 作成日時:2021年1月14日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。