4. ページ4
Sakuma side.
自分自身がどんな顔をしているかなんて分からなかった
ただ、これ以上にないくらいに彼女に弱い自分を見せていることは分かる
「ねぇ、Aちゃん、」
そう声を掛けて彼女の方に手を伸ばす
眉間に皺を寄せつつ、Aちゃんは俺に近付いてくる
そういうところで疎い君は、ちょっと嫌いだ
彼女の白い手を引き寄せ、俺の隣に座らせる
彼女の口唇を見つめた
相変わらず化粧っ気の薄い口唇
それに指を添えると、パッと顔を離された
「嫌？」
視線を外し、逡巡している彼女の顎を掬えば、もう抵抗しなかった
「俺ね、ずるいのは分かってるよ。君も、知らないフリが上手だよね。だからさ、これは、二人だけの秘密ね」
さっきの口紅を繰り出し、彼女の薄い口唇にそれを滑らせた
その美しさを汚さないように
徐々に色付けられる口唇は綺麗だ
でも、俺を見つめる彼女の目はとても悲しそうで、それでいて怯えていて
あぁ、壊してしまったんだな
俺の心も、君の心も
上から下に塗り広げた口紅を見て、
「綺麗だよ」
そう言っても、Aちゃんはもう笑ってくれなかった
彼女の下唇をちょっと力を入れて拭えば、それは輪郭からはみ出て、彼女の白い肌に跡を付けた
俺の指先に移った色
それを、俺自身の口唇に滑らせた
彼女と同じように色付いた俺の口唇
これはきっと、彼女に対する執着の証
同じ色を纏った俺達は、同罪
一方的に背負わせることへの罪悪感
それでいて、俺の心の隙間を埋める存在があることへの安堵感
固執している
彼女に
彼へ向けても埋められないこの空虚感は、彼女とだったら成り立つんでしょ？
そんな世の中の整合性に合わせて上手く口裏を合わせて
狂っている
そんなの俺が分かってる
でも、手に入れてしまった彼女
そんな悲しそうな顔をしないで
そっとその頬に触れようとしたら、ひらりとかわされた
彼女の目は、俺に対する好意と恐怖が見えていた
もう、ここから抜け出せないことを知っている
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 172人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なむる。(プロフ) - のんさん» コメントありがとうございます！この作品自体を美しいと言っていただけること…これ以上に嬉しいことはないです！また新しい作品でも出会えること願ってます。ありがとうございます！ (2021年2月10日 6時) (
レス) id: 74f22f9e0f (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 凄いという言葉しか出てこない、語彙力の無い自分が恨めしいです。セリフや文章表現の仕方など、とにかく美しい作品をありがとうございました。 なむる。さんの作品が大好きなので、これからも応援しております。 (2021年2月10日 1時) (レス) id: bdef6e19e8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：なむる。 | 作成日時：2021年1月14日 22時
