74. ページ29
.
宮舘さんは先程の威勢は何処へやら、背中を丸めて私の後ろを歩いている
私は履いていたヒールを片手ずつに持って夜の道を歩いている
タイル貼りの舗装された道をあっちにフラフラ、こっちにフラフラ
「靴、履きなさいって」
「んー、」
口ではそう言うのに
彼は本当にあれから私に触れてこなくなった
そういうところ、すごく律儀な人だと思う
思えば、私は彼に何も伝えられていない
私は貴方のことをどう思っていて
どうしてあの日にキスをして
あんなことを言って
対して、彼はこんなにも明け透けと感情をぶつけてくれる
もうこの年齢だし、初なフリなんてしないけど
彼から向けられる好意は普段私を辟易させるものとはまた少し違った、温度感と輪郭の曖昧さがあった
私達の関係性は不透明だ
これは依存なのか、それとも愛情なのか、もっと別のものか
知ってほしい、て言った私が居るから
彼にとっては酷く心労の原因だと思う
「飲み直す？」
曖昧な態度をとったのは私
それを言葉にしなかったのも私
驚いたようにこちらを見た宮舘さんに申し訳無さを感じつつ、こんな馬鹿みたいな女のフリして誘うことくらいしか、私には良い方法というものが分からなかった
傍らを通ったタクシーを捕まえ、向かったのは彼の家
一緒に鍋を食べた日以来、宮舘さんは私を自宅にあげていない
お手本通りの1から10までをなぞるような彼の律儀さは幼さと不器用さと、彼が抱える恐怖によるもの
タクシーの車窓に頭を預け、流れていく夜景を眺めている彼を横目に
私、このあとこの人に抱かれるのかなぁとか、そんなことを考えてた
数カ月ぶりにあげさせてもらった彼の家は何も変わらなかった
まあ、確かめる間もなく浴室に連れて行かれて足を洗えって言われたけど
足を洗った私を、今度はソファに座らせ、宮舘さんはその前に跪いた
ぐいっと持ち上げられた足とその強引さ
私の足は宮舘さんの跪く腿の上にのせられ、ソファの背凭れに身を預けていると、宮舘さんの指がスルリと私の足の甲を撫でる
くすぐったさに足を引っ込めると、彼は思ったよりも熱っぽい目で私のことを見上げた
「今夜、弱ってる君に、告白しようなんて思わないよ」
彼はそれだけ言うと、再び私の足に視線を戻した
傷がないか、丁寧に視覚と触覚で確かめられる
恥ずかしくて、背凭れに頭を預けて腕で顔を覆った
玄関に、真紅の靴底をしたピンヒールが転がっていた
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 374人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SnowMan」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：なむる。 | 作成日時：2021年7月1日 22時
