狂おしいほど紺碧を刻み【渡辺翔太】-2- (ページ28)

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宮舘さんは迷いなく会場を突っ切り、ガラス扉を開けて外へと私を連れ出した

手を引かれながら、私は翔太のことを思い出していた

翔太も、あの音楽室で二人して怒られた日、私を守ってくれた

あぁ、結局私は、誰かに守られることでしか私の立場を守れないのかな

閉じていくガラス扉を振り返った

あの頃、こうして逃げ出すことを知らなかった私から、何が変わったのだろうか

宮舘さんは先程登ってきた坂道の途中で急に立ち止まると、パッと私の手を離してその場に蹲った

「…はぁ、」

思ったよりも大きい溜め息が聴こえて、彼は折角セットした髪をクシャリと撫でる

私はそんな彼の横で立ち尽くすことしか出来なかった

「ごめん、乱暴した」

一向に顔を上げない彼は、子供のような口調で呟いた

それになんだかここまでの色々が重なって、鼻の奥がツンとした

「怖かった、」

それは、私の心からの声だった

いつだって一方的に晒される悪意には恐怖を覚える

それに抵抗する手段を未だに見つけられないまま

「ありがとうございました」

私の声に、宮舘さんは漸く顔を上げて立ち上がる

「人に、どれくらいの力で触れると傷付くのか、分からないんだ」

崩れた前髪の隙間から覗く黒い瞳は、こちらなんて全く見ていなかった

思わず自分の手首を擦った

「今、なんか駄目だ」

宮舘さんは不器用に口角を歪めると、大股で坂道を下りだした

普段の私達二人の歩調ではなく

どんどん遠くなる背中を呼び止めても振り向いてなんてくれなくて

履いていたヒールを脱いで手に持つと、私は坂道を駆け下りた

そんなに離れてなかったからあっという間に距離は縮まり、今度は私が彼の手を強引に握った

たったそれだけの時間で、私が彼に言いたいことなんて何も上手く形にできていないけれど

今、彼の手を離したら、多分彼はまた一人になってしまう

だから、私は迷うことなく彼の手を握ったのだ

それはつまり、私という存在の中に彼が留まることを許した、そういうことで

彼に触れられること、守られること、それを許容したということ

傷付くのは、少し怖いけど

「貴方に、知ってほしいの」

宮舘さんの瞳はぐらりと揺れる

この数分で、彼のあやふやさはよく分かっている

それでも、良いと思ったのは

「私で、試してみてよ」

二人で落ちる先

黒の世界に救いがないことなんて分かっていて

それでも、

貴方には私しか居ないでしょ

そんな優越感と、怯え

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