狂おしいほど紺碧を刻み【渡辺翔太】-2- (ページ26)

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大きな企業や有名な画廊等も参加するパーティーのため、招待客は絵画にというよりも周囲との人脈造りに血眼のようだった

人の視線と喧騒

普段はそれに辟易してしまうけれど、そんな中で宮舘さんは静かに絵画を見て回っていた

彼にそんなつもりはないのかもしれないけれど、何処か彼がそこから守ってくれているようで

私は彼にもう一歩だけ歩み寄った

私達は会場に飾られた絵画を四隅まで眺めては、ポツポツと言葉を交わしていた

幼い頃、こういうふうに誰かと何かに触れる機会は少なかった

大人になってからも、それはむしろ一人の時間だった

そう、改めて思い出した

そして、同じタイミングで息を呑み、同じように感嘆の息を吐き、綺麗だと言葉を交わし、共に足を進めて

そのちょっとした一つ一つに何処か居心地の良さを感じていた

半分くらいまで見終わった頃、背後から声を掛けられた

振り向くと、初老の男性、この個展の主催の先生が立っていた

「先生、お久しぶりです」

「薬研さん、久しぶりだね。随分と顔を見なかった。元気そうで何よりだよ」

「なかなかお伺いすることが出来ず、申し訳ございません」

先生は元々、母との関係で繋がりの出来た人脈

そんなに出展数は多くないけれど、今でもレプリカを扱わせて貰っている

私に引き継がれた後も繋がりを切ることがなかった貴重な存在

「こちらは？」

「あ、宮舘涼太と申します」

宮舘さんは一つお辞儀をする

「宮舘さんは額装師をされているんです」

「ほう、お若いのに珍しい」

先生は関心したように言うと、是非作品を見せてほしいとおおらかに笑ってみせた

宮舘さんも嬉しそうに笑っていた

「そういえば、君のお母さんの調子はどうだい」

「あ、」

先生はころりと表情を変え、如何にも心配というような表情になる

その言葉に私は口籠る

宮舘さんにはそのことについてまだ伝えていない

不器用に口角を曲げ、先程よりも小さな声で発する

「あまり、ですかね」

「そうか…、また花を贈ろう。よろしくと伝えておいてくれ」

私の随分と濁した言葉にも先生は表情を変えず、私を宥めるような視線を送ると私達の元から去った

それを見送ると、私は力なく頭を下げた

「ごめんなさい、」

何にかは分からないけれど、多分、彼は私の中で特別な人ではあったから、かな

視線の先、彼が一歩こちらへ近付くのが見えた

彼の纏う香水の匂いが私を包んだ

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