狂おしいほど紺碧を刻み【渡辺翔太】-2- (ページ24)

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疲弊した顔で帰路につくサラリーマンや学生がちらほらと見える中、その流れに逆らうようにして私は夕日に沈む街の中を、駅に向かって少し足早に歩いていた

訝しげな顔で振り向かれるけど今はそれにも構っていられない

足元に纏わりつく少し長めのワンピースの裾を押さえながら時計を確かめると、約束していた時間の10分前を指していた

それから数分後には待ち合わせとしていた最寄りの駅に辿り着く

息を整えつつ、『今、到着しました』ってメールを送るのと、

彼と私の視線がぶつかったのはほとんど同じくらいだった

私がそちらへと駆け寄ると、慌てたように彼もこちらへと駆けてくる

「宮舘さん、ごめんなさい。お待たせして」

「いいえ。まだ約束した時間より早いし、気にしないで」

宮舘さんはそういうと眉を下げて柔らかに笑った

息を整える合間に彼の姿を改めて見やる

いつも重た目な前髪は真ん中でふわりと分けられ、彼の額からの骨格が鮮明になってる

モスグリーンのコーデュロイ素材のダブルスーツと、中に合わせたブラックのタートルネック

全体的にシックな組み合わせだけど、手元のゴールドリングや首元のパールネックレスでカジュアルな印象になってる

しげしげと頷いていると照れたように笑った彼は、私の前髪にゆっくりと触れた

彼はあの日から滅多に私に触れてこなくなったから、急に近付く距離に少しだけ首をすくめてしまった

それに気付いたのか、はたまた気づいていないのか

「貴方も、とても綺麗だよ」

宮舘さんの手はするりと離れていった

今日の私は折襟がウエストまで続き、絞られたAラインのブラックドレス

シルク素材のシンプルなデザインだけど、バルーンスリーブが女性的な印象

髪型は軽くアップにして、メイクも真紅の口紅を引き立てるようにアイシャドウはマット素材で奥行きをハッキリとさせ、ベージュに近いチークと強めのハイライトで骨格を強調することに重きを置いた

口紅と同じ真紅はいつもよりも高いピンヒールの靴底にも忍ばせている

有名なブランド店の物は到底手に入れられないから、ネット通販で買ったものだけど

全身をくまなく確かめる宮舘さんに照れくさくなって、真紅の口唇を少しだけ噛んだ

彼も小さく頷くと、

「行きましょうか」

そう言って私に背を向けて足を進める

その背中を追うと彼はすぐに私が付いてきているか横目で確かめてくれる

いつの間にか、二人の歩調は当たり前のように合わさった

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