狂おしいほど紺碧を刻み【渡辺翔太】-2- (ページ23)

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沈む意識を浮上させると、鋭い日差しに照らされて思わず目を細める

頭上の高い高い天井と陽光を持ってしても、私の心は何処か晴れない

重たい頭を上げて隣を見ると、同じくベンチに座る翔太は携帯電話を弄っていた

つい先程、意識を飛ばす直前まで見ていた光景と全く同じで、それに少しだけ笑った

飛行場のターミナル

折角だからと彼を飛行場まで送りに来た

翔太が乗る便まではもう少しだけ時間があって、二人で待っているところ

目を覚ました私に気付いた翔太は、今度は電光掲示板へと視線を走らせる

「もうすぐかな」

手元のチケットと見比べながらそう呟いた

私も同じようにそちらを見やる

沢山の地名が書かれたそこに、『羽田』の文字

出発時刻までもう30分程だ

ゆっくりと立ち上がった翔太に続いて、私も立ち上がる

二人で歩き出し、保安検査場の方までとゆっくりと進む

いつもよりも、ずっとゆっくりとした歩調で

未だに言い出せない言葉を二人とも持ちながら、まるで相手の出方を伺うように

保安検査場の前まで付き、本当にこれでお別れ

結局、ここまで来る間に私達は一言も言葉を交わさなかった

ゆっくりと振り返った翔太は少しだけ口を尖らせ、自身の首元を撫でた

不器用に合わさった視線

それに苦笑した

「ねぇ、…あのさ、抱きしめて良い？」

ポツリと小さな声でそう呟いた翔太

翔太はあまり自身から誰かに触れることを好まないと思っていた

だから、その言葉が意外だった

それに驚いている間に、翔太はあっという間に私を抱きすくめていた

久しぶりのような、初めてのような

むず痒くて、温かくて

翔太、こんなに大きかったかな

いつの間にか、こんなにも広い背中をしていたんだね

驚くほど速い鼓動

その胸にピタリと耳を付けると、強い力で翔太は私をもう一度抱きしめた

翔太の少しだけ冷たい手が、私の腰や背中、肩、頭

一つ一つを慈しみ、象るように触れていった

背中を丸め、私の肩口に顔を埋めた翔太がくぐもった声を発する

「どこにも、行かないで。俺から離れないで」

矛盾しているのに、翔太の言葉を私は正しく理解したし、それだけで心を絡め取ってしまうのだから

「待ってるね」

それが正しい言葉かは分からないけれど、翔太は私の耳元で小さく「ん、」と肯定の言葉を発した

パッと身体を離した翔太は、もう私を見ることはなかった

別れも言わせず、あっという間に遠くなる背中

馬鹿で、不器用で、優しい人

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