狂おしいほど紺碧を刻み【渡辺翔太】-2- (ページ3)

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次の日、約束通りに彼女は工房にやってきた

両手に荷物を抱えて

その姿に笑えば、彼女もまた照れくさそうにしていた

それらを預かり、俺達は工房へ向かった

彼女の希望もあって、完成間近の額縁の作成を少しばかり見てもらった

彼女は俺の仕事にとても興味を持ってくれた

それは誇らしいことだし、嬉しいことだった

額縁を作る間、俺の心はとてもフラットな状態になる

色々なモノを抱えた宮舘涼太ではなく、あくまでただの人間になる

それに向き合う時間、俺が抱える要らないものも一旦仕舞っておくことが出来た

下地を塗り、塗装を何度も重ねたそれに金箔を貼り、瑪瑙棒で擦って光沢を出す

それを終え、あえて金箔を削って年季を出させる

何度も何度も重ねてきたその時間と作業

俺を、俺自身がコントロール出来ている

自分の鼓動も、呼吸も手に取るように分かる

その空間に、彼女の視線を感じた

それはよく感じるあの息苦しさではない

空間に溶け込むように、それでいて柔らかな電流が俺の背骨を這い上がるような

普通の人、も、知っているのだろうか

この感覚を

最後の工程を終え、その木材は漸く額縁としてこの世に生まれた

もう何度経験しただろうか

でも、やはりこの感じは特別だった

自身の手で生まれた額縁は、もう俺の手を離れて一つの作品としてこの世に存在する

それは誇らしいことだった

額縁を一撫でして、作業机の上にゆっくりと置いた

傍らの存在が動く気配がした

「完成、したんですか？」

机の縁に置いていた自分の手のすぐ傍に、彼女の小さな手が添えられた

それを撫でるようにして隣の存在に目を向けると、彼女は俺の方なんて見ていなくて

一心に額縁を見つめていた

彼女の問いに答えた俺の声は、酷く掠れていた

交わらない視線

美しい横顔

触れたら崩れ落ちそうな線の細い身体

彼女は知っているのだろうか

俺が、貴方を試していること

あまり純情なフリは、しないほうが良いよ

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