狂おしいほど紺碧を刻み【渡辺翔太】-2- (ページ18)

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夕飯にするにはまだ早い時間だったけど、格安のファミリーレストランでお互いに食べたいものをたらふく食べた

交わす言葉は決して多くはない

今日の天気の話

昨日の笑い話

それと、明日という曖昧な話

一分、一秒

進んでいく時間を慈しむようにゆったりとした時間を過ごす

自宅に帰る途中、いつものDVDショップの隣を通ったけど今日はDVDは借りなかった

翔太も何も言わずに私の隣を歩いていた

我が家に着いたのは夜の19時頃

翔太は先に風呂に向かい、彼が上がったら続けて私が入った

淡々と紡がれる日常って、こういう時に楽だと思う

風呂に入って、身体を洗って、服を着替えて、髪を乾かして

頭の中はこれでもかとあらゆる思考が次々と舞い込むのに無意識に手だけは動いている

人間って賢くて、馬鹿だなとも思った

鏡の中に映る自分は、とても人には見せられないほど覇気のない顔をしている

ずっとこんな調子だったのだろうか

いい加減覚悟を決めろと、一つ気合いを入れた

リビングに向かうもそこは電気が付けられただけのもぬけの殻で、寝室にでも行ったのだろうかと足を進めると、途中のベランダへと続く窓の隙間が僅かに開いているのを見付けた

風に吹かれたカーテンがふわりと揺れる

出来るだけ静かに窓を開けた

ベランダから漏れる明かりが真っ直ぐ夜空へと繋がる

その明かりの途中に翔太は居た

窓を開けてすぐそこにしゃがみ込む背中

彼の背中は、こんなだっただろうか

「部屋、冷えるんですけど」

「んー」

探していた背中を見付け声を掛けると、随分と間延びした声でこちらへと振り返る

私も大概だけど、貴方もか

彼の表情を見て呆れたように笑う

翔太はそれを勘違いしたのか、照れくさそうに頬を掻いて顔を伏せてしまった

「何してるの？風邪引くよ」

いくら春に差し掛かったとはいえ夜はまだ冷える

鼻先をなぞる夜風はひんやりとしていた

「よくあるアメリカのホームドラマみたいにそれっぽい雰囲気作ろうと思ったけど、やっぱ無理だわ。寒っ。」

ブルッと身体を震わせた彼は、下手くそに笑って立ち上がる

なにそれ、て笑ったら、翔太もからりと笑った

「A」

翔太はよく透き通った声で、唐突に私の名前を呼んだ

「ん、」

「A、」

「はぁい、」

「A」

こちらへと振り返った翔太

彼の水分量の多い瞳と視線がぶつかる

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