狂おしいほど紺碧を刻み【渡辺翔太】-2- (ページ16)

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呆然とその光景を遠目に見ていた

そしたら見慣れた姿が大きな段ボールを抱えて外階段から降りてきた

引き寄せられるように私もそちらへ進むと、階段から降りた彼がこちらに気付きその場に立ち止まった

晴天の中で佇む彼の涼し気な白いTシャツと、額に張り付いた前髪

世間はまだ春というのに初夏のようなジメジメとした晴れの日だった

「手伝おうか」

翔太の目の前に立った私の第一声はそれだった

翔太も怯えたような表情から、一瞬で間の抜けたような顔になる

私だって考えた

亜美に言われた直後も、電車の中でも、ここまで辿り着く道中でも

ただ何を言ってもちょっと違う気がして、私から出てきたのは当たり障りのない言葉

当たり障りのないって、ここではちょっと変かな

「待ってて、これ置いてくる」

呆れたように笑った翔太は手に持ったダンボールを業者のスタッフに渡すと、私を呼んで再び外階段を上がり出した

私の前を歩く背中

時折吹く風に柔らかく揺れる白いTシャツ

その背中に、何を言おう

何度か訪れたことがある翔太の家

今まで集まるのは私の家が多かったから、そうは言ってもここに足を踏み入れるのは随分と久しぶりな気がする

玄関を通されると、いくつかのダンボールとがらんとした部屋が広がっていた

翔太はその空間を誤魔化すように、Tシャツの襟元で自身の汗を拭いた

お互いに何も言い出さず、私は羽織っているシャツの袖を捲った

「翔太、これは？」

「ん、あ、いる」

「なにこれ？」

「良いの、」

翔太の家に残された少しの物を仕分ける作業

私はリビングの脇に鎮座する小さな本棚の中をキレイにしているところ

いるものと、いらないもの

取捨選択が早い翔太

1時間ほど黙々と作業を続ければ、家の中のものはほとんどトラックに詰め込まれてしまった

私も本棚の整理を終え、最後のダンボールをスタッフに引き渡した

いよいよ物がなくなった部屋の中心に二人で座ると、この部屋も思ったよりも天井が高いことに気付く

ぼーっとそれを眺めていると、翔太が徐に口を開いた

「ごめん、」

「何が？」

「言ってしまったことも、言わなかったことも」

翔太のくせに、随分と回りくどい言い方をする

そちらへと顔を向けると、胡座をかいた翔太は拗ねたような顔で指を弄っていた

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