狂おしいほど紺碧を刻み【渡辺翔太】-2- (ページ13)

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「翔太に関係ないじゃん」

私の口から出た言葉は、私ですら驚くほど暗いものだった

それ以上は辞めろと、頭の片隅で止める私も居るのに

一度タガが外れれば簡単に止まってくれない

酔いのせいにするには、幼稚過ぎるだろうか

「自分のこと、棚に上げてるのはどっち」

翔太との睨み合いが続いた

言い訳がましいけれど、だって私達はお互いのパーソナルな場所には踏み込まないし、それぞれの他者との関係性についてとやかく言い合うこともなかったのに

それは、私だけだったのだろうか

お互いに成人前はちょっとしたことで喧嘩することも少しはあった

大人にもなればその無意味さと労力を知っているから引き際を弁えているのに

これ以上やれば、私は翔太をもっと傷付けてしまう

だから、私から目を逸らした

「帰って、」

でも、翔太はその場から動く様子はなかった

私の目線の先、翔太の少し汚れたスニーカーを見つめた

「帰れ、」

その言葉にも翔太は動こうとしないから

翔太の脇をすり抜けてエントランスを通り、エレベーターへと乗り込んだ

翔太は追い掛けてこなかった

重力に逆らって上昇するエレベーター

その重さに逆らえずに床に座り込んだ

後悔とか怒りとか色々が収まりどころが悪くて、逆立つ心を宥めるようにゆっくりと深呼吸した

翔太の発した言葉が、呪いのように自分に纏わりついていた

"男一人のことだってまともに取り合わないくせに"

いつからか感じるようになった、他者から向けられる感情に対する気怠さ

翔太にそれを期待するものがなかったから、私達はこうして今まで何喰わぬ顔して一緒に居られたのだと思う

ただ、それを翔太は今壊そうとした

いつまでも、目に見えない関係を続けていられるほど、お互いに余裕なんてないのかもしれない

すぐにエレベーターは自宅フロアに到着して、重たい足を引き摺って自宅玄関に入る

真っ暗な玄関の上り框に腰掛けた

足元のレースアップブーツを脱ぐのすら億劫で

「面倒くさぁい」

面倒くさい

本当に

貴方と私の在り方が変わってしまうのは

「面倒くさぁい、」

一人の部屋に流れた声は、ちょっとだけ震えていた

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