狂おしいほど紺碧を刻み【渡辺翔太】-2- (ページ11)

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暫く歩いて彼女の自宅マンションに着いた

暗闇の中に現れる明るさに目を向けると、エントランスの前に誰かが座り込んでいた

俺がその人を確かめると同時に、彼女は俺を呼び止めた

「あ、宮舘さん、ここで大丈夫です。
今日は本当にありがとうございました」

らしくなく、少し慌てたような様子

そこで気付いた

あの人は、もしかしてって

でもそのもしかしての明確な関係性を知る暇もなく、彼女はここから足早に立ち去ろうとした

だから、彼女の腕を引いた

驚いたように俺を見上げてくるから、その瞳の素直さに思わず口を噤む

「宮舘さん、」

「あの、また、会いたいって言ったら、
迷惑かな」

一瞬ぽかんとした表情になるけれど、彼女は直ぐに柔らかく破顔した

「ううん、迷惑じゃない」

「そっか、」

ぎこちなく笑えば、彼女は可笑しそうにクスクス笑って俺の手を握る

「良かった」

「うん」

「おやすみ」

「おやすみ」

名残惜しく離れていった手

少しだけこちらを振り返った彼女は、直ぐにエントランスへと駆けていった

その足音に気付いたのか、視線の先の人物が立ち上がる

その先は見たくなくて、自らその場から立ち去った

彼女と歩いた夜道を、今度は一人で引き返す

当たり前だった一人の時間が、今はこうも虚しいと思ってしまう

深く息を吐いて、思ったよりも自身が疲弊していることに気付く

これがきっと、正常なんだ

気になってる人とご飯を食べたり、

触れ合ったり、

話をしたり、

笑い合ったり

当たり前に動く心に敏感になり、自らそれを遠ざけていた

動く心は怖かった

そこに対する揺らぎが、誰かを傷付け、俺を傷付けたから

でも、いつの間にか俺はそれを受け止めたいと思うようになっていた

彼女に近付く権利がそうして与えられるのなら

誰しもが持つそれを俺自身が認めることで、漸く俺は普通の人と同じ立ち位置に立てる

フラフラと歩きつつ、夜空を見上げた

星も月も出てないのっぺりとした夜空

人は誰しもがこの空の下で孤独で、それを誤魔化すように他人の隣を選ぶ

何がそこまで人を動かすか

俺は、彼女が好きだ

たったそれだけの理由だ

そこに、彼女を傷付けて良い理由なんてない

俺は間違えたから、そこから正したい

彼女とは正しく、向き合いたい

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