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24. ページ24

Miyadate side.




携帯をテーブルの上に置いて彼女が座っていた椅子の方へ視線を向ける

俺と、彼女が注文した膳が2つ、もうすっかり冷えてしまった


あーあ、勿体ないって薄情かな


普段から自炊をよくするし、食にはこだわりが有る方だと思う

ただ、そんな俺だってさすがにこういう状況で真面目に目の前の食事を口に運ぶことなんて出来そうにない


思ったより、誰かに助けてもらいたいんだ

心の中のSOS信号を伝える方法なんて、分からないのだけど


どうしようもなく、再び携帯を手に取って着信履歴を開く

そんな多くない履歴の中、上から二番目

つい3日前くらいに業務連絡を寄越してきたあいつの電話番号

理由もなく、いや、理由はあるんだけど、

声が、聞きたいなって


でも簡単に押せなくて、俺の指先が彷徨うだけ

決心が鈍りかけたとき



「っ、え」



ガヤガヤした大衆食堂の中で良かった

思ったよりも大きく出た俺の声

隣で俺達の別れ話をチラチラと気にしていたサラリーマンがこっちを向いた

そんなことには構わず、つい今押そうとしていた番号からの電話で

間違えて掛けちゃったかな?なんて

数回深呼吸をして

平静を



「もしもし」

『もしもし、涼太?今いい?』

「うん」

『近く、実家に帰る予定なんてない?おばさんに渡したいものあって、ついでに』

「うーん、ないかな」

『そっか、じゃあ良いや。ごめんね』

「あ、」

『ん?』

「いや…」

『何さ』


歯切れの悪い俺の言葉に、電話の向こうのAは黙り込む

別にAに言う内容でもないよな

でも、何か今日は駄目なんだよ


「お膳をね、2個頼んじゃったの」

『…は、』

「どうしよう」

『知らんわ』


からりとAは笑った

つられて俺も笑う

あー、俺、ちゃんと笑えるんだ


「いる?」

『いらんって言いたいけど今月金欠だからあやかりたい』

「Aの大学の近くの食堂だけど、今どこ?」

『バイト終わったところ。行くよ、場所教えて』


現在地を伝えて切られた電話

店員さんにプラスチックトレーを頼んで、頼みすぎた料理をその中に詰める

会計も済ませて、2つのレジ袋を手に店の前でAを待つ

春とは言え、まだ夜は冷えるな

そんな季節の移り変わりにも疎くなってしまった



「涼太、お待たせ」



季節を表す言葉を沢山知っている、彼女に会うのが久しぶりだから




.

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なむる。(プロフ) - 雪の王子様さん» 私が出した全ての作品に、本当に素敵なコメント下さって!!ありがとうございます^_^彼らの素敵な姿を描けたらな…頑張ります! (2020年9月16日 7時) (レス) id: 74f22f9e0f (このIDを非表示/違反報告)
雪の王子様 - さっくんでてきた!なんかすごい展開の予感…更新頑張ってください。 (2020年9月16日 2時) (レス) id: a501c8742d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:なむる。 | 作成日時:2020年8月23日 23時

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