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『もしもし』


わずか3コールで止まる着信音

流れ込む特徴的な低い声は、その奥の雑踏に埋もれて聞き取りづらい


「ねえ、泊めて」

『…何?』

「泊ーめーて!」


少し大きな声を出したら、電話の向こうの声が消える

その代わりとさっきの雑踏が大きくなる

どうやら電話の相手はカラオケにでもいるらしい


そんなのも少しの間で、ゴソゴソって音と共に誰かのちょっと音痴な歌声は遠くなる

代わりに電話の相手の声が少し鮮明に聞こえた


『今、外なんだけど』

「待つ」

『いや、そういうことじゃない』

「ねえ、助けて」


何に対するSOSなのかわからない

ただ、私の従兄弟はこのSOSにとても敏感だから

ここぞとばかりにこの魔法のコトバを繰り出す私は質が悪い


『今どこ?』

「家の近くを歩いてる」

『分かった。人がいる所に居て』

「うん」

『あとどれくらい待てる?』

「いくらでも」


抑揚の少ない声は、思ったよりも荒立っていた私の心を落ち着かせる

頭と心が凪いでいく感覚に、ふーと一つ息を吐く

寒空の下、街灯に一瞬照らされた私の口から、白い息が流れ出た



結局、従兄弟がこっちに来るまで最寄りのコンビニにでも居ようと思って、表通りを歩く

コンビニに着く傍ら、その隣に新しくコインランドリーが出来ているのを知った

人工的な灯りが漏れるそこには人っ子一人いない

ふと、自分が羽織るパーカーから、きっと今頃我が家で慌てているであろう彼の香りがした

そういや、これ、よく彼も羽織ってた

それが嫌だったかどうかは分からない

ただ、今の私の心には凡そ良い思い出なんてものを引っ張り出す余裕はないから

コンビニに向かっていた足を、コインランドリーの方へと向けた


そこに入ると、冬場にしてはやや設定温度の低い空間

正面に青やら赤やらの大きな洗濯機が横一列に6台ほど並んでいる

それと向かい合うようにして、こっちの窓際にはスツールと大きめなテーブルが2台、同じように横一列に並んでいた


ざっと見た感じではどの洗濯機も動いてないみたい

件のパーカーを脱ぎ、『洗濯乾燥機』ってプレートの付けられた洗濯機へ放り込む

普段だったらこういう所に来ないから、勝手も分からず試行錯誤しながらスタートボタンを押した

少量コースにしても、少なすぎるパーカー一枚

ぐるぐる回るそれを、スツールに座ってぼーっと眺めていた




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なむる。(プロフ) - 雪の王子様さん» 私が出した全ての作品に、本当に素敵なコメント下さって!!ありがとうございます^_^彼らの素敵な姿を描けたらな…頑張ります! (2020年9月16日 7時) (レス) id: 74f22f9e0f (このIDを非表示/違反報告)
雪の王子様 - さっくんでてきた!なんかすごい展開の予感…更新頑張ってください。 (2020年9月16日 2時) (レス) id: a501c8742d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:なむる。 | 作成日時:2020年8月23日 23時

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