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18. ページ18

Sakuma side.




その子の名前が阿部亮平で、その子を俺は阿部くんって呼ぶようになって、そしていつからか阿部ちゃんって呼ぶようになった

そんなのは、俺が阿部ちゃんを知って半年くらい経ってからのこと

別に特別に仲が良いって訳ではない、向こうにとって

週3回のレッスンの内、会えても週に1回程度

阿部ちゃんはいつも同じグループの子達と組んでて、そのグループの中ではいつも端っこの方で踊ってた

綺麗なのに、勿体ないのにって渇望の瞳で見ている自分が知らない間に居て、そんな彼の瞳が俺に向くことがないことも知っていた

言葉を交わしたことなんて両手の指で数えられるくらいしかないんだ

だからこそ、俺のステージはもっともっと特別なものになった

俺のステージ、皆の視線が俺に集まる中、その視線だけが俺を奮い立たせた

その視線が、ずっとずっと俺を射止めていた

その瞳に映る俺が、誰よりも輝いていればって願った

その瞬間だけが、俺と阿部ちゃんの線と線が繋がる瞬間だから


俺の心を徐々に蝕む違和感には知らないフリをしていたのに

気づくキッカケなんて結構アッサリしたものだった


今日もまた、俺は一人でダンス教室のど真ん中、踊っていた

そんなことはないのかもしれないけれど、どこからか向けられる彼の視線を手探りで探していた


軸足に体重を乗せてピルエットのようなターンを決める

ぐるりと回る視界

タンって音と共に両方の足を地につける

天を仰ぐように上げた視線と伸ばされる手

最後まで、指の先の先まで綺麗に、綺麗に


音が完全に鳴り止んだ瞬間、俺の頭のてっぺんから釣り上げていた糸がプツって切れたように緊張が解ける

上がる息なんて無視して、ぐるりと周囲を見渡した

いつものこと、みたいな顔した連中の中に阿部ちゃんを探していた

阿部ちゃんはすぐに見つかった

いつも居るから、教室の、端っこの方

ただ、今日はちょっとだけ違ったんだ


阿部ちゃんの瞳は、俺のことなんて見ていなかった


ねえ、その隣の女の子は誰?

なんで、俺のこと見てくれないのさ

そんなに楽しそうに笑わないで

あ、どうしてそんな内緒の話をするの




好き、だよ




口にすら、ましてや心の中ですら言ったことのない言葉がポロリと溢れた

慌てて口を塞いだ

それが、実際言葉になっていたかなんて分からない

でも、認めたくなかった


だって、そんなの、ダメなことじゃん





.

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なむる。(プロフ) - 雪の王子様さん» 私が出した全ての作品に、本当に素敵なコメント下さって!!ありがとうございます^_^彼らの素敵な姿を描けたらな…頑張ります! (2020年9月16日 7時) (レス) id: 74f22f9e0f (このIDを非表示/違反報告)
雪の王子様 - さっくんでてきた!なんかすごい展開の予感…更新頑張ってください。 (2020年9月16日 2時) (レス) id: a501c8742d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:なむる。 | 作成日時:2020年8月23日 23時

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