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Sakuma side.
「ねぇ、打ち上げ行こ？」
まだイスから立ち上がらない阿部ちゃんの隣に俺はしゃがみ込む
下から見上げた阿部ちゃんは、少し困ったように笑った
もう劇場の中の片付けは始まっていて、スタッフが機材だったり舞台装置の格納をしているところ
近くで折りたたみイスを畳んでいた男のスタッフが、俺達をちらりと見た
「ううん、俺はいいや」
「そう…そっか！じゃあ、また今度ね。今度は二人で美味しいもの食べようよ！」
あ、軽蔑の眼差し
阿部ちゃんの背中越しにその男のスタッフと目が合った
俺は何度もそういった視線に晒されてきた
もう、痛くないよってフリが出来るくらいに
「そうだね。じゃあ、俺は帰るよ」
「送ってく！」
「んーん、良いよ。佐久間、裸足でしょ？」
阿部ちゃんはそう言って、立ち上がった俺の足元を指差した
あちゃーって頭を抱えてたら、静かに笑った阿部ちゃんは歩き出して俺にひらりと手を振った
劇場からあっという間に居なくなった阿部ちゃん
俺はいっつもその先の阿部ちゃんを想像するんだ
俺よりも身長が高くってひょろっとしてて
薄っぺらい身体に綺麗な横顔
その笑顔は俺だけのって思える特別なもの
その足で何処へ行くんだろう
俺が知らない、居るかもしれない彼女のところへ？
その人を抱き寄せて、俺には見せないような表情も、仕草もしてみて
キス、したことあるのかな
阿部ちゃんの口唇が染まる姿なんて、見たくなくて、でもきっと美しいもので
何度も考えたよ
何で、俺は阿部ちゃんと同じ身体に生まれたんだろうって
男と女なら、何で二人とも男なんだろうって
正解と不正解なら、何故不正解しか選べないのだろうって
舞台後の火照った身体が余計なことを考えさせた
ぐるぐると回る思考回路に追いつけなくなって、ヘナヘナとその場にまた座り込む
阿部ちゃんが座っていたイスに頭を凭れさせた
そしたら、そこから見えた床にキラリと光るものがあった
阿部ちゃんが座っていたところの隣、それに手を伸ばすとよく見かけるブランド物のパッケージだった
蓋を開けると真っ赤な口紅
俺はその紅を少しだけ指先で掬い、自分の口唇に滑らせた
その瞬間、俺の頭を過ぎったのは、色付いた阿部ちゃんの口唇でも、知らない女の姿でもなく
随分と前に出会った、彼女の姿だった
まだ幼くって、俺の曖昧な心のせいで深く深く傷付けてしまった彼女の姿
俺が染めた彼女の口唇は、きっと執着の証
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なむる。(プロフ) - 雪の王子様さん» 私が出した全ての作品に、本当に素敵なコメント下さって！！ありがとうございます^_^彼らの素敵な姿を描けたらな…頑張ります！ (2020年9月16日 7時) (
レス) id: 74f22f9e0f (このIDを非表示/違反報告)
雪の王子様 - さっくんでてきた！なんかすごい展開の予感…更新頑張ってください。 (2020年9月16日 2時) (レス) id: a501c8742d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なむる。 | 作成日時：2020年8月23日 23時
