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乱暴にソファに置かれた彼のスーツジャケットを畳もうとした時、そこから口紅が滑り落ちた
それは私の知らないもの
丁寧にラッピングでもされてたら、もしかしてを思えたけど
如何にも使い古してますみたいな風貌
王道のドラマだったりとかのシチュエーションなら、今、浴室でシャワーを浴びてる彼にこれを叩きつけるのだろう
これは何なの！？て
ただ、思ったよりも私はヒロインみたく熱い感情も持ってないし、
ヒロイン向きの感動物語を求めているわけでもない
今日だって、仕事終わりの彼がついでみたいにフラッと私の家に立ち寄っただけ
こんな建前上の関係を続けて、思い出したように二人の上辺だけの時間を作り上げる
どす黒い感情が湧き上がってきて、何だかなって思って
ベランダに出て、大きく腕を振りかぶる
でも、手元のそれを投げ捨てる直前で踏みとどまった
それは女としての性なのか、私の心の善意なのかは知らない
結局捨てられなかった口紅は、私の手の中でキラキラと輝いていた
暫く思案して、結局何が一番収まりどころが良いのかっていうのもよく分からず
まだシャワーの音が聞こえる洗面所への扉を開け、洗面台の鏡の側へ
風呂場に続くすりガラスには彼のシルエットがゆらりゆらり
こんな現実も知らないで
この事実を知ったとき、彼はどんな顔をするのだろう
せめて慌てふためけばいい
口紅の蓋を開け、真っ赤なルージュをくり出し、
鏡に大きく『ばかたれ』って描いた
真っ赤な字が綴られた鏡の隙間
映る私の顔に色はない
洗面台に口紅を置き、私は財布とケータイとパーカーを持って家を出た
何で私が私の家から出なくちゃいけないんだって思いながらも
今、彼と面と向かって会うことは出来ない
会えない理由が欲しかったのかもしれない
夜も更け街灯に照らされる住宅街を抜け、行く宛もないからとりあえず勝手知ったる道を彷徨う
有事の時にかけ込めるような場所はなく、一瞬だけ長く空けている実家を思い出すものの、それはそれで面倒だっていう結論
本当、自分という人間はどこまでも面倒
救済を求める心と、相反する面倒くささを抱えて、暫くケータイの着信履歴を遡っていると、都合のいい相手が一人だけいたことを思い出す
着信履歴の上から3番目
見慣れた番号に指を伸ばす
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なむる。(プロフ) - 雪の王子様さん» 私が出した全ての作品に、本当に素敵なコメント下さって！！ありがとうございます^_^彼らの素敵な姿を描けたらな…頑張ります！ (2020年9月16日 7時) (
レス) id: 74f22f9e0f (このIDを非表示/違反報告)
雪の王子様 - さっくんでてきた！なんかすごい展開の予感…更新頑張ってください。 (2020年9月16日 2時) (レス) id: a501c8742d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なむる。 | 作成日時：2020年8月23日 23時
