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Aちゃんことわたしは、飛び上がりそうなほどびっくりして、机に視点を合わせたまま目を瞬かせる。
「……」
「……ん？」
「……っ」
ゆっくり顔を上げると、肘をついたまま余裕なかんじでこちらを見つめる永瀬くんと目があってしまった。
頭が熱くなって、恥ずかしい。
ぜったいに感情がもれでてる。
「そ、そんなことない、です」
「え、照れてんの？」
「照れてません！」
「へー。そんな顔もみせてくれんだ」
「んなっ」
なんでこんな甘ったるいコトバが続々と出てくるの？このひとは。
「ふっ」
突然、永瀬くんはおかしそうにわらいだした。
あっけにとられるわたしに、彼はいたずらっぽい笑みをみせる。
「……ごめん。
だってAちゃん、からかったときの顔、マジでかわいい」
なんで、こんな、精神攻撃。
「さっきも店の前に立ってて、なかなか中に入れなかったときのAちゃんが、可愛くて俺どうにかなるかと」
きゃーーー。
なんと、あの恥ずかしすぎる現場を一部始終見られていたらしい。
穴があったらいますぐはいりたい。
そしてしにたい。
しかも、それを見ていたこと、黙っていたなんて。
意地悪！なんてひとだ、永瀬くん！
「もうかえりますっ」
何かが限界突破して、席を立とうとしたわたしの手首を、彼は慌てて掴んだ。
「あー、やりすぎた。
待って待って」
「もう、無理ですわたし」
引きこもりの陰キャのぼっちに、こんなのははじめから無理があったのだ。
それも、こんなにもきれいな顔の男の子となんて……キャパオーバーにもほどがある。
だけど意外にも永瀬くんは必死だった。
「……いや、ほんとごめん。
だけど帰んないで。
俺、舞い上がってるんだよね、たぶん。
すきな子との初デートだから」
繰り返される甘い言葉に、脳が蕩けてしまったのか、もうなにも考えられない。
免疫のないわたしはまた、力が抜ける。
彼の力に抵抗できなくて、簡単に思い通り。
無力にもまた、おとなしく元の場所に座っている。
……ずるい。ずるすぎる、こんなの。
経験値が違い過ぎるじゃないか。
「帰んないでくれる？」
少しだけ不安げにわたしの目を見つめる彼は、相変わらずきれいな顔だとおもう。
……こんなすてきな人と休日にデートするイベントを、現実にこなす日がくるなんて、まだ信じられなかった。
ゲームや漫画の中なら、ともかく……。
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作者名：菜 子 | 作成日時：2020年6月5日 21時
