フラれたので慰めて【うらたぬき】 (ページ5)

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5話ページ5

「そんなに怒ると綺麗な顔が台無し。俺この後用事あるから帰るね。洗いもんよろしく。じゃ！」

それからは私が引き止める暇もなく、彼は玄関近くにあった自分のカバンらしきものを引っ掴んで部屋を飛び出していった。

玄関に向かって、ポツリと零した。

「……名前聞きそびれた。」

私が覚えてないだけなのかもしれないけど。

――――

洗い物をしている時にふと思った。ふたつのマグカップ、箸、皿…。全部ペアじゃん。そりゃ同棲してたし、まだ元彼の私物もいくつか残っている。

1人になり、しんと静まり返った部屋は驚くほど寂しくて、虚しい。そうだお揃いのもん全部捨ててやろうか。そんなことも考えたりしたけども、やはり躊躇してしまう。

スマホを開いた。昨日、消すにも消せなかった連絡先の彼の名前。履歴欄はほとんど彼の名前で埋まっていて、今更悲しくなるのも、お揃いの食器や服飾品を捨てられないのも、未だ未練があるからだろうか。

まぁ、今彼に電話をかけられるほどの勇気とメンタルは持ち合わせていないし、声を聞いたらすぐに泣いてしまいそうだ。

メールにしよう。

彼とのトークを開いて、『近いうちに荷物だけ取りに来てください』と簡潔な文章を7分かけて送った。

スマホの電源を落として、洗い物を再開した。