フラれたので慰めて【うらたぬき】 (ページ7)

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7話ページ7

「え～？だって出世して偉くなればさ、志麻課長の瞳にも映るかなって思って。」

何気なく聞いてみただけ、柏木も何気なく言った一言だろう。私にはずっしりと重かった。深い意味はない。ただ、今恋愛に関係する話はだめなんだってまじで。両想いって尊い。

久しぶりに私に付き合ってよ～とグラスを傾ける動作をする柏木に苦笑いを零しながら、はいはいと適当にあしらう。私だって話したいことあるし、付き合ってやってもいいかななんて微笑んだ。

「…牧野さん。」

聞き覚えのある声だった。私の大好きなシトラスの香り、落ち着く眼差し。

「ふ…、駒田さん。」

奴が出向いてきやがった。わざわざ、私の前に。
一番会いたくない人。胸が痛いわこりゃ。

駒田楓也。私の元彼。2歳年上。別部署の主任。社内恋愛。交際5年。苗字をくれ。
ああ待って待って、落ち着け私の脳みそ。私達はもう赤の他人だ。ポーカーフェイスを作れ。保て。

「どうしました？駒田さん。」

「うん、ちょっと話があって。今時間いいかな。」

「…ハイ。大丈夫です。」

不穏な空気を感じ取ったのか、柏木は失礼しますと席を外し仕事に戻って行った。
変なとこで変な気回すのやめろ。お陰で気まずい。

「ここじゃ何だし、場所を変えよう。」

私はただ、黙ってついていくしかない。泣きたい。だれか助けて。

人通りの少ない非常階段の踊り場で足を止めた駒田。今更何の用だというのだ。さりげなく必死に逃げ回っていた私がバカみたいではないか。
目の前の駒田を真っ直ぐに見つめた。

「勤務時間だけど、俺たちは今だけ、プライベートの時間だ。」

「……何の用。」

わけのわからん事を言いだしたかと思ったら、私のこの大好きな顔で緩く微笑む楓也。だめだ。やっぱりまだ好き。呼び出された事に対して、少しだけ嬉しく思っているのも、事実。

めんどくさいと思われてはいけない。物分かりの良い私を演じなきゃ。
まだ、嫌われたくない。

「荷物、今日の仕事終わりにでも取りに行こうかと思って。……俺から言っといて何だけど、昨日のメールは堪えたな。」

「そ、そう。わかった、仕事終わったら近くのカフェででも待ってて。私もなるべく早く切り上げるから。」

「ありがとう。………あのさ、俺ら…………。やっぱなんでもない。じゃあ今日の帰り、よろしくな、A。」

名前を呼ばれるのは酷く久しぶりな気がして、泣きそうな顔を隠すように踵を返した。