無個性でよかった【死柄木弔】 (ページ40)

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３８話ページ40

『ひ、ひさしぶり・・・・・・』

私は何とか返事を返したが、そのあとは沈黙が続いた。

ただただ、お互いを見あっている。

私の心臓はとっくのとうに限界を越えているの。

この場から逃げ出したくなる。

だけど、弔は私を逃がしてはくれない。

なぜ？

「なんで、俺の方に来なかった。」

なぜ弔の方へ行かなかったのか。

お父さんのことが、小百合のことが大切だったから？

それだけだったら、私は自分の決めたことを話していたはずだ。

ならなぜか。

それは・・・・・・・

『・・・・・・なんで、そんなに普通の顔してられるの？』

「は？」

多分、何を言っているのかわからないんだろう。

弔はヴィランだから、色々とわからないのかもしれない。

本来享受するはずだったものが弔にはないんだろう。

頭の中では理解しているつもりだ。

でも、心はそんな単純じゃない。

『だって、弔に色々と言ちゃった上にキスまでされたんだよ？

どんな顔をして会えばいいのかわかんないよ・・・・・・・』

「・・・・・・・」

私は何をしたいんだろう。

こんなこと言うつもりなかったのに。

あぁ、きっと弔を困らせてる。

「辛いこと全部聞いてやるって言っただろ。

それなのになんであんなことしたんだ。」

『・・・・！』

あの時、飛び降りた時。

かすかに声が聞こえた。

気のせいだと思っていたけど、私の名前を呼ぶ声が。

つまり、あの時声をかけてくれたのは・・・・・・・

『弔が助けてくれたの・・・・・？』

「助けたんじゃない。」

「お前を迎えにきたんだ。」

『迎えに・・・・・？』

「あぁ。鳴は俺の傍にいてくれればいい。お前を苦しめるものは全部俺が壊す。」

弔の言葉が私の胸に響く。

まるで鎖で縛りつけられるようだ。

今までだったら絶対に嫌がってただろうに、弔にやられるのは嫌じゃない。

でも、なんで。

なぜ？

『ここまでしてくれるの・・・・・・？』

弔はヴィランで、きっと多くの人を殺してきたはずだ。

決してお優しい人じゃない。

どこか子供じみた発想で、自己中心的に世界を回しているだろうに。

弔の言葉は嬉しい。

でも、一方的に依存する関係にはなりたくない。

それに、私は彼の重しになってしまう。

それは、嫌だ。

弔には自由に生きてほしい。