60話 ページ16
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「逃げて！！」
「逃すわけねェよなァ〜〜〜ァ！」
武器もまともな荷物もない。
ブワッ！と再度頭まで呑み込もうと襲ってくる泥に、また後退すると避け切れなかったらしい護衛さんが呑まれ、動揺したしらほしさんの尾鰭が捕まった。
「触らないで！！」
「ケヒヒヒ！静かにしてちょ〜〜だいよォ！お姫さんだけ頂こうと思ったが、ついでだ！お嬢さんも攫っていこうかねェ〜〜！！」
咄嗟に羽織っていた上着を脱いで泥を取り除こうとすると、瞬く間に触れた部分から登って来た泥が口元を覆った。鼻まで覆わない辺り殺す気はないらしいが、声が出せなくなってしまった。
「見た目は悪かァねェ。お嬢さんを売り飛ばした後に、お姫さんを連れて行こうかねェ〜〜ェ！」
「んんっ……！！」
「ん！！んん〜〜！！」
いつの間にかしらほしさんも口を覆われている。かなり慣れている手腕に、海賊であり人攫いだったのかと今更気付いた。
鼻呼吸で苦しくはないがこのままでは本当に危ないし、気付いた時にはヒューマンショップでした、なんて洒落にもならない。
上着を拳に巻いて殴ってみても、泥が拭えるどころか上着ごと飲み込まれた。相性が最悪だ……！！
「ち〜〜ょっっと気絶してて貰うだァけよォ〜〜う。
島の港に弟達が着いたと連絡があ〜〜ったァ！！一緒に行こうぜ、�狄契こΝ瓠�！」
ふざけないでと、叫びたい。
海賊なんか、正直なりたくなかった。
コソコソ旅人してきたのは死にたくないからだし、追われる立場になるのもまっぴらだったからだ。
それでも大人しく船に乗ったのは、逃げられなかったからだけじゃない。彼らの、彼のいる船だったからだ。
血迷ってもこんな人のいる船になんか乗りたくない！
「んんん！！」
しらほしさんの悲痛な声。私を先に呑むつもりらしく、不安定な足元に穴が空いたように地面の感触がなくなった。
一気に肩まで埋まり、なんとか逃した手が天へ縋るように上へ向く。
トプン、と音がして、視界が暗くなる。微かに蠢く泥の動きが見えて、何かを掴もうと足掻く手も呑まれていく感覚。
「ケヒヒヒヒヒ！！大人しく〜〜_______！！？」
だれ、か……！！
「_______なにやってんだ、お前は！！！」
泥越しに響いた声と共に、伸ばした手が掴み取られた。
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