7話 ページ7
，
母様に習ったピアノ。それは形のない忘形見。
この家にピアノがないから弾くことは出来ないけど、絶対に忘れたくないから、鍵盤のない机で時折弾いている。
コンコンとリズミカルなその音が不満ではあるが、滑らかに動く手指に安堵できるのだ。
「ピアノなんて高価なもんを持ってたなんて、おまえほんとに良いとこのお嬢様だったんだな」
「裕福ではあったけど、お嬢様ではないよ」
「お嬢様だろ。おれ達ピアノなんて触ったことねェし」
元は父様のものだった大人用のベッドに二人で寝転ぶシャチとペンギン。時々硬い地面と寒空の下で眠るのが嫌になった二人は泊まっていくのだ。あまり長居はしないけど。
お風呂に入ってすっかり清潔感を取り戻した二人は、コロコロ布団にくるまってホッと安堵の表情を浮かべている。
それを横目に見ながら無心で弾いていると、声が一つ規則的な寝息に変わった。
ぴたりと手を止めて見れば、ぐちゃぐちゃの布団に包まれたシャチが静かに眠っていて、ペンギンはそんなシャチを気遣って静かに動いているものの、その目はパッチリ冴えている。
「眠れない？」
「まあ」
「なら私の故郷の子守唄を歌ってあげようか？歌詞は覚えてないけど、音は覚えてるから」
「…………頼むよ」
怖い夢や映画を見たとき、寝付けない私を穏やかな眠りに誘ってくれた、母の歌。歌詞はもう思い出せないけど、母様に教わったピアノがあるから音だけはずっと覚えていられる。
鼻歌でしかないそれが、私にとっての愛すべきもの。
黙って聞いていたペンギンは、二番が終わる頃には静かな寝息を立てて寝具に沈んでいた。布団をかけ直して、月明かりの差し込む窓のカーテンを閉めた。
「いつかまた行けたらいいなあ」
母様が愛したフレバンス。私の故郷。
父様が泣くのをやめた日からパタリと新聞はうちに届かなくなって、町の人たちも何故か私に読ませてくれない。
父様が何かしたことはわかるが、真意は全く分からないので私は立派な世間知らずになっていた。
だから今フレバンスがどうなっているのか、外の世界はどんな風に形を変えているのか。
これから海に出るのだとしたらそれが不安ではあるが、今はどうしようもない。
お墓はスワロー島から移せないけど、せめてあの教会でシスターに祈ってもらえれば、きっと母様の冥福に繋がる。そして母様はまた、フレバンスに行くことが出来るだろう。
「早く来てくれないかなァ、父様」
_____________________
「おい、ロー。愛してるぜ！！」
，
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 426人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「ONEPIECE」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雅榴(プロフ) - 翠さん» 多分、どうせ年内には作るんだよなぁと開き直ったので尻叩きに予告してしまいました笑 休息も兼ねますので多少時間はかかりますが、気長にお待ち頂けると嬉しいです。コメントありがとうございました！ (2023年2月5日 18時) (
レス) id: 7a47bd801a (このIDを非表示/違反報告)
雅榴(プロフ) - 時雨さん» 休息も兼ねてゆっくり考えようかなと思っているので、気長にお待ち頂けると嬉しいです〜！ご期待に添えるよう頑張ります、コメントありがとうございました！ (2023年2月5日 18時) (レス) @page42 id: 7a47bd801a (このIDを非表示/違反報告)
翠(プロフ) - なんと…！続編も…！！最高です、本当にありがとうございます。体調にはお気をつけて。また！ (2023年2月5日 16時) (レス) id: 64131c5e87 (このIDを非表示/違反報告)
時雨(プロフ) - 続編ありがとうございます🙏最高です；；！この後どんな展開になるのかとても楽しみです！これからも応援しています。 (2023年2月5日 13時) (レス) @page42 id: dee2fbc24a (このIDを非表示/違反報告)
雅榴(プロフ) - チックタックさん» ありがたいお言葉をありがとうございます！続編はうっすら考えてはいるものの、そもそも作るかを悩んでいるのでそう言って頂けると嬉しいです。コメントありがとうございました！ (2023年1月31日 12時) (レス) id: 7a47bd801a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
